MELニュース2022年 7月 第52号

ご高承の通り、先月スイスのジュネーブで開催されたWTO閣僚会議で「漁業補助金協定」が採択されました。2001年から20年以上にわたり、WTOの場で交渉を続けてきた漁業補助金問題がようやく世界共通のルールとして合意されたことになります。ただ、協定はWTO加盟国の3分の2の批准がないと発効しませんので、議論に要した20年を考えるとこれからの道のりは決して楽観出来ないと思います。
協定にはIUUや乱獲につながる補助金の禁止が盛り込まれており、新漁業法のロードマップの実践を待つまでもなく、皆様とともに資源管理に些かでも貢献出来ることを願っています。

1. 国際標準化関連

GSSIの新基準への申請は大きな動きはなく,事務局間で実務的な交渉を続けています。今回の場合、GSSI事務局はMELの審査に当り養殖認証規格新バージョン(Ver.2.0)による審査報告を6件求めており、この要求にどう応えるかが課題のひとつです。更新審査あるいは新規審査のタイミングにある事業者の方々にお願いし対応していただくことになりますので、心苦しいところであり出来れば件数を減らすことをGSSIに要求しています。
GSSIの審査員(Independent Expert)は、 前回は3人ともアメリカ人でしたが、今回はWeb会議の便宜を考え、出来る限り時差の小さい国から選んだとのことで、A、B(管理、運営)担当はAniel Sasidharan(インド)、C(養殖)担当はDr. Treavort Ward(オーストラリア)、Jose Peiro Crespo(イギリス)の3氏が指名されています。この3氏はMELのMOCAに関わっており,スムーズに審査に入れることを期待しております。

2. 認証関連

今月も発効は低位でした。認証件数は漁業1件、CoC3件、計4件となり、合計認証件数は193件と200件を目前に足踏みをしております。
今月の特記事項として、海光物産様の東京湾船橋スズキ中型まき網漁業の漁業認証が発効したことに触れたいと思います。2019年4月に申請が受けつけられた案件であり、認証まで時間がかかってしまいました。CoC認証は2021年6月に既に発効済みで、海光物産様の大野 和彦社長は勿論のこと審査機関及び審査員、資源解析に踏み込んでいただいたピアレビュアーの努力の結果の認証であり、忍耐強く推進された関係者に敬意を表します。
この認証は東京湾のスズキを認証対象にしており、図らずも東京湾のスズキの資源の盛衰と湾岸の工業化が資源に与えたダメージの歴史をたどることになりました。同時にこの様なローカルな資源の解析の意味をしっかりと受け止め、今後は小型底引き漁業やレジャーフィッシングとのかぶりを含め、資源管理の実践に注目したいと考えています。審査報告書は日水資のホームページでご覧いただけますが、事業者による黒塗りが皆無であった始めてのケースであったことを付記させていただきます。

3. 養殖認証規格委員会を開催しました

MEL養殖認証規格改正(Ver.2.0)に関し、パブリックコメント募集を終え、事務局最終案を事業者の皆様への説明および総会に諮る前段として7月6日に規格委員会を開催しました。
養殖規格改正の背景としては、GSSIの新基準(ベンチマークツールVer.2.0)への対応、MELの理念の内外への発信と産業との共有、規格そのものをより精度を高め、かつ使い易くすることに重点を置いています。
➀生餌、モイストペレットの使用、②水質管理、③給餌管理、④疾病発生時の対応、⑤種苗生産施設の汚染管理、⑥飼料の履歴管理を盛り込んでおり、事業者の皆様への説明会(第2回目、7月22日)を経て、臨時総会(7月25日書面開催)で承認をいただき、MEL養殖規格(Ver.2.0)として発効します。
現規格の新規格への移行期間は3年間としていますので、事業者の皆様には新規格への対応のための準備期間として活用いただけます。

4. 認証取得者からのご報告

今月は、水産物輸出拡大のためMELCoC認証を取得されたエイワマリンプロダクツの代表取締役野村 知弘様にお話し伺いました。

「MELの取り組みを世界へ発信したい」

エイワマリンプロダクツ株式会社
代表取締役 野村 知弘

 弊社は、主に海外の外食産業向けに航空便を利用した生鮮魚介類の輸出を行っております。
昨今の消費者、店舗様のSDGs及びエコ機運と高まりから、弊社としても持続可能な水産資源の維持、供給に寄与、貢献する為、具体的な施策として、この度MEL認証取得に踏み切りました。

海外では、根強い日本食人気があり、わが国に於ける一貫した市場流通システムがもたらす、安定的かつ高品質なSEAFOODは高い評価を得ております。
一方、MSCやASCが普及している海外では、ホテルやレストランに於いても徹底した漁獲環境、産地のトレサビリティーが義務付けられている事業所があり、こうした傾向は、今後益々増加してくると予想されます。
このように海外では、SDGsへの取り組み意識は非常に高く、反面、日本は残念ながら、後発国である感は否めないところがございます。
新鮮な日本発の魚介類を海外のお客様へお送りすると共に、限りある水産資源を次代に引継ぐのが弊社に課せられた使命であり、日本発のエコラベルであり、中高緯度海域の多様性に富んだ生態系に於いて多種を漁獲対象とし、比較的小規模な漁業も対象に捉えたMEL認証の普及は正に時代に則した取り組みであると捉えております。
また、シンガポールやロサンゼルスのお取引先様もMELに強い関心を抱かれており、国の垣根を越えた取り組みに貢献出来ることは光栄の極みに存じます。一方、MELを海外に発信、浸透させる為には、課題も山積している現状があります。MEL認証魚を末端の消費者様にお届けするには、弊社の輸出物をお引取り頂く現地のお取引様のMEL認証が必須となって参りますが、現審査体制では、物理的に現地審査及び合否判断の判定に難しさを感じます。更なるMELの普及、浸透の最前線を担う立場として、上記の課題を解消する為の具体的なご提案をさせて頂ければと思います。そしてSDGs14番目の目標「海洋と海洋資源の保全し持続可能な形で利用する」に大きく貢献していければと考えております。
これからも、日本が誇る豊かな水産資源を海外へ輸出し続ける事業者として、また、鮮度や美味しさだけでなく安全・安心をお届けし続ける事業者として、最前線で走り続ける所存でございます。

野村様有難うございました。世界の水産物が日本に集まる時代から、世界の水産物が世界で消費される時代になって十数年経ちました。時代のフロントランナー としてこの動きを引っ張ってこられた野村社長の話を噛み締めました。MELが期待に応えお役に立てる様情報交換を密にしたいと願っております。

4. 関係者のコラム

FAOが1995年に「責任ある漁業のための行動規範」を採択したことをキッカケに水産資源の持続可能な利用が動き出しました。しかしその道は決して平坦ではありませんでしたが、産みの苦しみを間近でご覧になった(一社)自然資源保全協会の前 章裕様にその時のお話を伺いました。

「四半世紀も前のこと」

(一社)自然資源保全協会
業務執行理事 前 章裕

 私が水産庁でFAOの担当をしていた頃ですから、1990年代の半ば、かれこれ四半世紀も前の話しになりますが、ローマで開催されたFAO水産委員会の場で、有名な環境保護団体と世界的な食品会社が共同でMSCを立ち上げると発表しました。その頃は、貿易や流通上の手法を水産資源の管理に活用できないかという話しが始まっていた頃で、ICCATにおいて大西洋クロマグロのIUU漁業国と認定された国からのクロマグロの輸入規制に関する議論が盛んに行われるようになっていました。

 当時私は、FAOだけでなくICCATも担当していて、貿易規制に関係するというのでWTOの議論にも参加していました。WTOに対する私の当時の印象は、「自由貿易を阻害するような議論に対しては保守的で、新たな貿易規制については消極的だ」というものでした。幸い、いわゆる四極(日米欧加)がIUU漁業規制に積極的だったこともあって、WTOでは大きな抵抗はありませんでした。
一方で、WTOの会議に出席していて注意を引いた議論に、「任意のエコラベルが貿易阻害的に働くのではないか」というものがありました。ドイツを始めとするEU諸国では国内の環境保護への意識が高く、たとえ任意であってもエコラベルが導入されると、その基準を満たす技術がない国の製品の輸出に不利に働くのではないかという懸念が発展途上国を中心に表明されていました。
MSCの考え方そのものは既に1990年代前半に創設されていた林業のFSCをベースにしたものであったと思いますが、FAO水産委員会の場においても、WTOにおける議論と同様に途上国を中心に懸念の声が上がったことを記憶しています。特に、大手の食品会社が背後にあるということもその要因だったように思います。その後の水産エコラベルの進展は皆さんご存じの通りで、環境問題に対する世界的な関心の高まりを受け、あれだけ保守的なWTOにおいても環境保護のために必要な貿易管理措置については基本的に容認の方向にあるように思います。この間の変化には驚かされるばかりです。
最近の環境問題に対する意識の高まりの中で常々私が感じていることは、欧米、特にヨーロッパ諸国の時代の波にのっていく戦略性の高さです。自動車の省エネでは日本のハイブリッド技術が世界を席巻しましたが、欧米では環境問題への意識の高まりの中で、ハイブリッドで日本を追いかけるのではなく電気自動車で世界をリードする戦略をとっています。日本はハイブリッド技術に力を傾注したこともあってか、電気自動車については後塵を拝せざるを得ない状況にあります。MELはMSCを追いかけるように進められてきた取り組みですが、このハイブリッドと電気自動車の教訓が生きる可能性を秘めていると思います。
環境問題が国際的に議論される際には必ず地元民の関わりの重要性や途上国への配慮の必要性が指摘されます。MELは日本の漁業の実態を踏まえたきめ細かな対応ができるという独自の利点を備えています。このようなメリットは、日本と同じような特徴を持つ東南アジア等の漁業にも生かせるのではないでしょうか。先日、MSCとMEL双方を取得されている業者の方とお話ししていて、「MSC取得により実際海外への輸出が増えた。一方、MELは経済的なメリットがない。例えば、給食に使ってもらえるとかのメリットを打ち出していくことが重要ではないか。」という指摘がありました。MEL取得のメリットを目に見える形にしていくためにも、MSCの目に届かない漁業へのMELの普及が期待されます。

前様有難うございました。丁度同じ時期にヨーロッパの漁業者と加工事業者の集りであるGFF(Ground Fish Forum)でもこの問題が報告され漁業者の大反発が起きたことを覚えております。後段の電気自動車のお話は前様ならではの炯眼、シッカリと受け止めさせていただきました。

5. MEL審査員研修関連

今回の審査員研修はCPD研修で7月19~20日にオンライン形式で開催し、7名の審査員に加え認証機関候補からのオブザーバー2名計9名の皆様に参加いただきました。
先月号のMELニュースでご案内しました通り、GSSIの新規準に伴うMEL養殖規格の改正他、最新の情報を共有し審査員の皆様の現場での活動のお役に立てることを目指しました。オンライン方式の研修がようやく板についてきており、グループケーススタディでは講師と受講者間のやり取りが生き生きと進められていることを嬉しく受け止めました。CPD研修は今後受講される皆様の負担を出来る限り軽減する方向を目指したいと考えております。

6. イベント関連

この度コープデリ生活協同組合連合会様(関東甲信越1都7県の6生協の連合組織)が創立30周年を迎えられました。心からお祝を申し上げます。
7月12日に創立30周年記念の環境シンポジウムが開催されました。プログラムは高村 ゆかり様(東京大学教授)の基調講演「これからの気候変動対策-持続可能な地域づくりへ」に続き、パネルディスカッションに赤尾 健一様(早稲田大学教授)、桑田 義文様(全国農業協同組合連合会専務理事)、駒形 洋子様(コープデリ理事)、渡辺 竜五様(新潟県佐渡市長)の皆様とともにMEL協議会垣添が招かれ登壇いたしました。会場のよみうり大手町ホールでの対面とオンラインのハイブリッド開催で、大変充実したシンポジウムになりました。

登壇者から環境に対する取組み報告と、コープへの期待とともにチャレンジしたいことが発表されました。MELにとりCOOPサステナブルへの取組みが進んでおり、MEL商品が会員の皆様の生活に浸透するとても良い機会であったと受け止めています。

シンポジウムの概要は、コープデリ様のHPでご覧になれます。

7. 販促事例

外食関連で唯一MELCoC認証を活用いただいております横浜食品サービス様の横濱本舗食堂において、新メニューとしてMEL認証のシラスを使った「しあわせ丼」がスタートし好評を博していることをご連絡いただきました。
MEL認証商品を使ったメニューが発売されてから7ヶ月になり6品が定番メニュー化されています。うちMEL海鮮丼が全メニュー中ダントツ1位の販売点数で、「しあわせ丼」も5位です。

お客様から「MEL」についての会話が聞かれるとのお話を嬉しく受け止めています。
「しあわせ丼」の釜揚げしらすは、愛知県師崎の愛知県しらす・いかなご船びき網連合会様(漁業認証)が漁獲した原料を→愛知県の(株)カネ成様(CoC認証)が加工し→(株)マルカイ様(CoC認証)が流通した商品です。

今月のMEL認証魚はヤマトシジミです。土用シジミといわれる旬のこの時期消費地の店頭を賑わしていますが、MEL漁業認証を取得しておられる十三漁協様では産卵保護のため一部の漁場のみに制限して操業しておられることが過日TV放送されていました。資源保護のための様々なご苦労が胸に響きます。
最近メディアが「未利用魚」あるいは「低利用魚」にスポットライトを当てています。ご覧になった方がいらっしゃるかと思いますが、7月4日に放映されたNHKのクローズアップ現代で「未利用魚」が取り上げらました。ウエカツこと元水産庁の上田 勝彦さんやベンナーズの井口 剛志さんが登場され、食べ方に加え「産直」と「Web」をキーワードとするビジネスの最前線を分りやすく話して頂きました。取り上げ方も好意的であり、「コロナが生んだ食育」として家庭の支持が拡がっていることに興味を覚えました。日本の漁業と食を守るキッカケになることを願っています。
何とも不安定な夏、皆様には呉々もご自愛下さい。

以上