予期せぬことヘの対応に戸惑っているうちに年度末がやって来ました。不確実性の年を色濃く映したまま乙巳年も早3ヶ月が過ぎようとしています。
昨年の日本の出生数は、日本人だけでは70万を割り込むことが報道されています。この数字は政府の予想より15年早く少子化が進んでいることを示しています。人口動態に関する予想は大きく狂わないと言うのが定説でしたが、想定を上回る大きな社会の変化が起きていると受止めざるを得ません。事業も自らも明日にどう備えるかが重たくのしかかります。
1.国際標準化関連
3月16-18日にSENA(Seafood Expo North America=旧ボストンシーフードショー)が開催され、様々な動きがありました。MELからは加藤事務局長が参加しGSSI関連の打ち合せおよびCSCとのCoC認証の相互承認の詰めを行いました。GSSIとは、MOCAに関わることの他、スキームオーナーとして継続して主張しています「養殖の飼餌料に同種同属由来のタンパク源の使用禁止」の改訂を強く申し入れました。CSCには双方の決定機関に諮られるようCoC相互承認のドキュメント案を提示し、近日中に最終案を作成することで合意しました(MELの場合は理事会、総会の承認をいただく)。特に「同種同属」問題は容易ではありませんが賛同する仲間の輪を拡げることで動きを作りたいと考えています。
Expoに関する加藤事務局長の報告は、9.のところに特集しました。
MOCA(承認継続審査)は3月14日にGSSI事務局とWeb会議を行いました。MELから提出済の資料のIE(審査員)による審査が進んでおり、指摘のあった項目についての微修正の上3月31日頃にGSSIベンチマーク委員会に諮る流れで進んでいます。この流れで行くと、4月末頃にはGSSIの承認が決定される見通しです。
2.認証発効関連
今月の認証発効は養殖3件、CoC5件で期末累計は漁業25件、養殖71件、CoC179件計275件となりました。前年3月末比31件の増加です。
認証事業者様の事業の停止、統合、合併、養殖認証規格(Ver.2.1)の審査の手引きにおいて府県をまたいだ認証の統合を認めた等の理由で認証件数は伸び悩みました。
3.認証取得者からのご報告
豊洲市場の仲卸でMEL認証を取得しておられる株式会社樋長様が、お客様である外資系のホテルグループ様からの「水産エコラベル認証商品納入の要請」があり、MEL認証されたクロマグロ(気仙沼の臼福本店様の昭福丸が大西洋で漁獲された製品)を届けられました。
状況について樋長の飯田真広様にレポートいただきました。
「漁業者の熱意をつなぐ」
株式会社樋長 飯田真広
弊社は、江戸の時代(文久元年創業)より続く日本橋~築地~豊洲と長きにおいてマグロを専門に取り扱う仲卸売業者です。様々な業態のお客様のニーズに対応できるよう、豊洲市場にて生鮮・冷凍のマグロの日々仕入れ販売を行っています。
近年におけるSDGsの観点により、外資系ホテル様におきまして、本鮪の取り扱いをやめるという事例がありました。しかしながら、水産資源・環境に配慮した漁業の水産物=水産エコラベル認証を受けた水産物は積極的に取り扱うと伺いました。
そこで日本発祥の水産エコラベル“MEL”において、生産段階認証事業者の臼福本店様の第一昭福丸(遠洋マグロはえ縄船・本鮪船籍)の存在を知り、弊社も流通加工段階認証事業者として第一昭福丸マグロを扱うことにより、ホテル様のニーズに対応することが出来ると考えMEL認証取得を目指しました。
MEL認証を取得した2024年1月5日、〈初荷〉において豊洲市場の冷凍本鮪のセリ場に、第一昭福丸のMEL認証ステッカーが付いたマグロが並びました。そのマグロは私にとって、とても輝く一本でした。臼福本店様の本気度と相まって、迷わずセリ落としました。マグロに惚れてしまったのです。
そしてすぐにホテル様に連絡を取り、納品させて頂きました。鮨部門の親方から「申し分のないマグロだね。とても良いよ、ありがとう!」の、お言葉は今でも忘れられません。
サプライチェーンにおいてトレーサビリティーは重要事項であります。そして漁業者の思いや熱意を繋ぐことが出来たことが嬉しかったです。昨今の多様なニーズに応えるべく、そして国際的な課題・目標の面におきましても、海の豊かさを守ることの重要性を感じています。
新しいラインナップとして顧客様の満足と信頼を高められるよう、そして社会貢献できるよう頑張ります。MEL認証の普及、認知度の向上により、漁業者の生産段階認証取得の動きが波及し、「MEL」を取得する漁業者が1社でも増えることを期待しております。
飯田様有難うございました。皆様の熱意で「持続可能な水産物の輪」が着実に広がっている様子が伝わってきます。また、お客様(外資系ホテル様およびレストラン利用者様)の反応も良好と承り嬉しい限りです。ご一緒にこの輪を更に大きく出来ることを願っています。
過日、樋長様から臼福本店様が企画された清水港での「第1昭福丸の揚荷と船内見学会」にMEL協議会にもご案内いただき、事務局の中島由貴とアンバサダーの冨田晶子さんが参加させていただきました。圧倒的な迫力に感銘を覚えるとともに、1匹1匹に付けられたタグに現場での真摯な取り組みの一端をしっかり受け止めました。臼井社長、小山船頭はじめ関係の皆様にお礼申し上げます。
4.関係者のコラム
このところ、MEL養殖認証Ver.2.1に関するお問い合わせを多くいただきますので、東京海洋大学 副学長 舞田正志先生(MEL養殖認証専門部会委員)にお願いし、養殖用飼料に関する動きを解説いただきました。
「MEL養殖規格Ver2.1の発行と認証継続」
東京海洋大学教授 副学長
舞田 正志
GSSIグローバルベンチマークツールVer2.0の発行に伴い、MEL養殖規格もそれに適合するため、規格の一部を改訂したVer2.0が発効しました。規格の主要な変更は「養殖魚の育成期において、直接的に未加工の魚介類を飼餌料として使用されていないことを確保する」ことにあり、結果として、育成期に継続してモイストペレットを使用することを制限することになりました。
FAOの責任ある飼料の使用に要求される養殖認証に関するテクニカルガイドラインでは、「養殖用飼料については環境負荷を最小限にするよう責任をもつこと、経済的な妥当性を促進すること」とし、未加工の魚介類(wet fish)から固形配合飼料への移行を推奨しています。ただし、このことは環境や社会的な費用便益の評価に基づき、ケースバイケースとされています。「養殖魚の育成期において、直接的に未加工の魚介類を飼餌料として使用されていないことを確保する」ために全面的にモイストペレットの使用を制限することが養殖生産者の経済的な損失につながることが無いよう、最小限のモイストペレットの使用を容認する必要があると考え、MEL養殖規格Ver2.0においては、使用条件を満たす場合にはモイストペレットの例外的使用を認める基準を策定してGSSIの承認を得ました。
MEL養殖規格Ver2.0の説明会でも、モイストペレットの使用制限で認証継続が困難であるとの意見も多く聞かれましたが、MEL養殖規格が国際的に通用するものであるためにはGSSIの承認を受ける必要があります。FAOのガイドラインでも推奨されている固形配合飼料への移行を達成し、責任ある養殖用飼料の使用と持続的養殖生産への取組を進めることにご理解をいただき、MEL養殖規格Ver2.1 の認証継続に取組んでいただきたいと思います。 国際的に通用する水産エコラベル認証を取得することの価値の創造に向けた努力はスキームオーナーであるMELジャパン協議会やステークホルダーの連携の下で進められていると思います。欧州向け水産物輸出拡大への取組において、養殖ブリの生食用チルド製品の輸出に対する要望が高いと聞いています。
現在はチルドでの輸出は加熱用に限定されています。これは、養殖ブリの寄生虫リスクの管理のためです。「英国及び欧州連合向け輸出生食用生鮮養殖クロマグロの 寄生虫管理に関する基準」を満たすものであれば欧州向けに生食用生鮮養殖クロマグロを輸出することが可能ですが、今のところ、この基準を満たして生食用生鮮出荷ができる原料魚の供給ができていないのが現状です。
この基準が養殖ブリに準用されれば生食用生鮮輸出が可能になるのではないかと思います。養殖段階での基準としては、人工種苗由来のものであること、冷凍処理(-20℃で24時間以上又は-35℃で15時間以上)を施した生餌又は配合飼料により養殖されたものであることが肝になります。養殖ブリのMEL養殖規格Ver2.Xの認証を受けている養殖場で人工種苗を使用しているところも複数あり、MEL養殖規格Ver2.1認証への取組が養殖ブリの欧州への生食用生鮮出荷を行う突破口になるものと思っています。MEL養殖規格Ver2.1 の認証継続に向けた取組は新たな価値の創造と養殖業の未来につながることを期待しています。
舞田先生有難うございました。正に、MEL認証取得が事業者にどうお役に立てるかの問題です。同種同属の給餌禁止問題とともに真剣に取り組みます。
5.漁業認証Ver.3.0についてパブリックコメント募集を開始しました
MEL管理運営規則に定める「5年1回認証基準の見直しを行う」に沿い、規格委員会で検討中であったMEL漁業認証Ver.3.0および規格改正に伴う適合判定基準がまとまりましたので、3月10日より60日間のパブリックコメント募集を開始しました。
今回の規格改訂は、水産エコラベルに求められる社会的要求への対応を中心に、重複部分の修正等全体を分りやすくすることを意識しました。
皆様からいただいたご意見は規格委員会に諮った上、6月に開催予定の定時総会で議論、承認いただける様取り進めます。
6.出前授業を行いました
2月27日千葉県松戸市立馬橋小学校で出張授業を行いました。当日は4年生4組の生徒100名が講堂に集まり、休憩を挟んで90分「一緒に海と魚のことを考えて見ましょう」をテーマに、松戸の歴史、海、気候変動、魚および魚食と広い範囲の授業を楽しみました。最も反応が大きかったのは、JAMSTECの「しんかい6500」が1991年7月に日本海溝6271mの深海底で撮影したマネキンの頭部の写真でした。「なぜこんなところにゴミ=マネキンの頭が沈んでいる?」が想像を超えたようでした。
また「将来漁師さんになって見たいですか?」の質問に、3人の男の児の手が上がりました。出前授業で初めて経験する瞬間でした。
生徒たちもさることながら、先生方が授業の内容に関心を持っていただき大変熱心に聴いていただきました。これからの授業の内容に反映され、所謂「噴水効果=家庭内で子供さんの発言が親に影響を与える」を期待します。
今後も、地道ですが出前授業に積極的に取り組みます。
7.アドバイザリーボード定例会議を開催しました
3月10にMELアドバイザリーボード定例会議(2018年6月に設立されて以来第7回目)を開催しました。MELが直面する諸課題につき、約2時間にわたる白熱した討議をいただきました。特に
- 昨年10-11月に実施した「MEL認証取得者の皆様の皆様に向けた実態調査」の分析と対応
- 国際化の進め方。アメリカCSCとのCoC認証相互承認を完結させ、彼らが準備中の新しい選択肢となる組織設立への対応、ASEAN諸国への展開
- FAO、GSSIの基準に対し日本の意見をどの様に反映させるか
- 新たな資源評価、温暖化による対象魚の分布の変化と認証取得推進。
等について厳しい議論を経て、座長の松田裕之先生から「MELは関係者の学び会いの場」の意義をもう一度思い出すこと、「認証制度に存在する性悪説、性善説を乗り越えIntegrity(正直、誠実、本来の姿)を重視しよう」のまとめの言葉をいただきました。
MELアドバイザリーボードの委員の牧野光琢先生が本年1月に、笹川平和財団の海洋政策研究所の新所長に就任されました(東京大学教授との兼務)。初代の所長は寺島紘士先生ですので、MEL協議会の活動が寺島、牧野両先生の人脈にあやかり更に拡がることを願っています。
8.MELアンバサダー修了式を行いました
3月14日に今年で4期になりますMELアンバサダーの修了式を行いました。出席者はWeb参加を入れて5名で、人数としては少しさみしかったのですが、皆様から熱心なご意見をいただき、また特別アンバサダーをお願いしています「さかひこ」さんの動画で大いに盛り上がりました。
東京のド真ん中で富山の超豪華な海の幸を・・・・・・
恒例の1年間の活動のMVPには土屋まゆさんと山本友子さんのお二人が選ばれました。土屋さんはMELのイベントに積極的に参加いただきその模様の発信がフォロアーに共感の輪を拡げました。山本さんは魚が大好きな男の子の母親としてお子様とともに参加いただき、アンバサダー活動の枠を拡げていただきました。
今年度は、今までのアンバサダーさんには継続いただける方は引続きお願いし、新規の募集は大学生の年代に焦点を当て若い人達に魚や水産への興味を持っていただく企画を考えております。SNSの時代皆様の積極的参加をお待ちしています。
9.SENA(Seafood Expo North America)に加藤事務局長が参加しました
国際化関連のところで触れました通り加藤事務局長が参加しました。SENAには50か国以上から多くの水産業界関係者が参加し、アメリカらしい広い通路のある大変大きい会場で行われました。JETROによるジャパンパピリオンには、日本全国からの出展が18ブース(MEL認証事業者を含む)であり、それ以外でも日本の事業者やその関連企業あるいは団体による出展も10ブース以上あり、大変賑わっていました。特に日本養殖魚類輸出推進協会によるブリ解体ショーと試食には多くの来場者が集まっていました。
トランプ政権の関税問題は水産業界にも波及することが避けられない中、不確実性の時代に向けて短期的、長期的対策が求められます。アラスカシーフードマーケッティング協会主催のレセプションに参加する機会もあり、北米でのシーフード産業界のエネルギーを強く感じた3日間でした。
地球温暖化が世界に豪雨と干ばつを頻発させています。カリフォルニアの大規模山火事が落ち着いたら、今度は太平洋を隔てた対岸の岩手県大船渡で平成以降日本最大規模の山火事が発生しました。何れも乾燥と強風に消火活動が追いつかない状況であったようです。大船渡の火災は沿海部まで燃え広がっており、ワカメの収穫期を直撃しました。ただでさえ、高水温で減収となっていると報道されており、輪をかけた山火事に心が痛みます。被害に遭われた関係者の皆様に心からお見舞いを申し上げます。
米の価格の高騰が国民生活に切実な問題となっていますが、「食の安全保障」への貢献の視点で水産物への期待にどう応えるか、ご一緒に考え行動したいと願っています。
以上