皆様明けましておめでとうございます。遅くなりましたが、謹んで新年のご挨拶を申し上げます。
2025年乙巳、「不確実性の年」が先の見えない不安の中でそろりとスタートしました。重たいニュースが日替わりで登場していますが、食の安全保障において期待が高まる水産業も海洋環境の変化や人口減少からは逃れられません。負の出来事にしぶとく対応して頑張りたいと願っております。
1.国際標準化関連
GSSIの新基準(Benchmark Tool Version 2)によるMELの養殖認証規格と漁業認証規格の承認から1年が経過したため、GSSIによる承認継続審査(MOCA)が2024年12月下旬から開始されました。そのため新たに審査報告書と改定された規程と最新の業務報告等を英文で提出し、提出後に項目別の審査員(Independent Expert:IE)から審査されます。1月末の提出締め切りに向けて、準備を進めています。
2.認証発効関連
今月の認証発効はありませんでした。
3.認証取得者からのご報告
今月は、能登半島地震から1年余、復興に取り組まれる現地の皆様の状況を石川中央魚市(株)の竹田美沙様にご報告いただきました。
「復興と持続可能な水産流通に向けて」
石川中央魚市株式会社
管理部 竹田 美沙
弊社は石川県金沢市の中央卸売市場で卸売を生業とし、今年59周年を迎えます。MEL認証(CoC認証)は2020年に取得、国際承認のMELとしては北陸で初の企業となりました。この度、令和6年能登半島地震から1年が経ち、MEL協議会より石川の水産物の販路回復に向けてお話しする機会をいただきました。
皆様ご存じではあるかと思いますが、能登地方の生産者等の水産関係者は船の損傷や海底の隆起、工場の倒壊など大きな被害を受けました。弊社では大きな物的被害および人的被害は無かったものの、2008年から始まった石川県産の水産物のみを扱う午前8時30分開始の2番セリ、通称“朝セリ”の開催が中断されています。この朝セリの出荷者の大半が能登地方の生産者からでした。
そんな中、新しいご縁もありました。石川県産の魚を是非使いたいと、東京都の農林水産省内「あふ食堂」からMEL協議会を通じてお声掛けをいただきました。石川県復興フェアとして石川県産の水産物を使用したメニュー提供が行われました。その他にも多方面からご支援、ご協力を賜りましたこと厚く御礼申し上げます。
さて、ここまで認証外のお話をさせていただきましたが、弊社としましては未だ目立った認証商流がありません。今後もこの商流を模索し、実現することを目標としています。そして今般、ロゴマーク使用・管理規定の改定により、「飲食業者に対するロゴマーク限定使用の許諾」が新設されました。この規定を活用し、末端事業者への認証水産物の推進を図り、消費者の目にふれ、実際に購入してもらう機会を作れるのではないかと考えています。
最後に、弊社はまだまだ続く能登復興のためにできる限りのご支援を続けていきます。より石川県産の水産物が全国に届くよう業務に邁進していく所存です。皆様もどうかお力添えをいただきますようお願い申し上げます。
竹田様有難うございました。寒ブリの大漁の報道が明るいニュースとしてメディアに露出する中、阪神淡路大震災から30年、東日本大震災から14年、自然災害からの復興の難しさを改めて感じております。水産物は日本の食を支える欠くことの出来ない重要資源です。能登の皆様の活動が正常に戻るためにMEL協議会がお役に立てることを願っています。
4.関係者のコラム
年の初めに当り、大日本水産会の枝元 真徹会長に執筆をお願いしました。
「なぜ認証を取らないといけないの?」
(一社)大日本水産会
会長 枝元 真徹
MELニュース1月号への寄稿を依頼いただきました。まずは、 2025年が皆様にとり、安全で幸せな1年となることを心より祈念いたします。
私は、以前農業の分野でも働いていました。その際、GAPの普及に取り組んだことがあります。今回は、その経験をお話してみたいと思います。
GAP(Good Agricultural Practices:農業生産工程管理)とは、農業生産の各工程の実施、記録、点検及び評価を行うことによる持続的な改善活動です。国際的な水準のGAPは、食品安全、環境保全、労働安全、人権保護、農場経営管理の5分野を含んでおり、MELの農業版とイメージしてもらえればいいのではないかと思います。ヨーロッパでのGLOBALG.A.P.が先に進み、日本発のASIAGAPとJGAP(運営主体;日本GAP協会、認定機関;JAB)があり、ASIAGAPがGFSIの承認を受けています。そのほか、カナダ、アメリカ、オーストラリアに同様の認証プログラムがあります。
このGAPの取り組みを推進するにあたり、はじめのころは、何のメリットがあるのか、認証を取れば高く売れるのかなどなど初歩的なやりとりから始まりました。それぞれの経営を改善し、日本の農産物・食品のブランド力を維持向上し、競争力を強化するには、世界の食市場で通用する認証を進めることが大事などと言ってもなかなかピンときていただけません。認証を取っただけで高く売れることはないなどはっきりさせるべきは、はっきりさせたうえで、実際に実践されている方々の効果(農薬の交差汚染リスクの低減、社員の責任感の向上、全体の作業時間の減少、実需者からの評価、外国人技能実習生の育成に有効等々)を説明することが地道ですが大事でした。
そのような中で、GAPの普及に大きくつながったことで印象深かったことを3点紹介します。
- 東京2020オリパラ大会における食材の調達基準に採用されたこと。(まもなく始まる大阪・関西万博の調達基準にも位置付けられています。)
- 団体認証の仕組みが設けられたこと(小規模経営の多い我が国では個々の経営体が認証を取得するのは負担が大きいため、たとえば農協が事務局となり経営体の指導や共通事項の管理、とりまとめを担当)
- 2015年青森県五所川原農業高校が高校生のリンゴ栽培、貯蔵でGLOBALG.A.P.を取得し、2016年オランダで開かれたGLOBALG.A.P.アワードで教育機関として世界初の受賞をしたこと(現在では全国97の 農業高校がGAP認証を取得し、農業高校同士のGAP学習会なども開催されています。また、その卒業生の就農をきっかけに、GAPを経営に取り入れるとも聞いています。)
以上、GAPの普及についての経験です。現在、令和6年3月末時点で日本の農畜産業のGAP認証取得経営体数は7,738経営体です。まだまだ普及が必要とも思いますが、多くの方の努力でここまで伸びてきました。実際の食卓は、農産物や水産物が一緒に提供され、いまや世界の食である和食もその組み合わせです。ぜひ日本発のMELとASIAGAPが手を取り合って、日本ではそれが当たり前となり、世界に認知され、世界のサスティナブルな食料システムに不可欠な手段となることを願っています。
枝元会長有難う御座いました。MELの立ち上げに当り、先輩であるGAPの関係者にご指導をいただきました。産業の規模からして水産は農業の十分の一と考え制度設計に入ったことを昨日のように思い出しました。GAPに習いかつ協働させていただきながら頑張ります。
5.イベント関連
MELが参加した(する)二つにイベントにつき報告します。
- 2025年1月10日~19日に東京ミッドタウン日比谷「食と生きる」展にてマルハニチロ様のブースで、水産認証の啓発のためのパネルでMELのご紹介をいただきました。
日本の食文化を未来につなぐために、「食の社会課題について考える」をテーマにしたイベントで、共同参加団体であるマルハニチロ様はMELの会員であり、今回のパネル展示でサステナブルシーフードの紹介で、MELについても触れMELのチラシ、冊子も置いて下さいました。 - 今年で6回目の出展となる港区環境リサイクル支援部環境課緑化推進開催の「生物多様性みなとフォーラム(パネル展)」に出展することとなりました。2025年1月24日(土)~1月29日(水)みなとパーク芝浦1階アトリウム及び喫茶前広場及び2025年1月31日(金)~2月7日(金)港区役所本庁舎 1階ロビーにて開催されます。お近くにお越しの際は、ぜひお気軽にお立ち寄りください。
6.長岡専務がベトナムにおけるワークショップに参加しました
1月15-16日、大日本水産会がホーチミン市とフーエン省トゥイホア市で開催した水産資源持続的利用ワークショップ(WS)において、長岡専務が同会およびMEL協議会両方の立場から、日本の資源管理の取組と展望およびMELについて説明しました。
ホーチミンでは、日本の魚を輸入し日本食レストランほかの外食チェーンに卸す会社の社長他幹部、トゥイホアでは、同省の投資局副局長、マグロ一本釣り漁船船主、水産加工会社社長他が出席されました。
前者はMEL認証を取得している日本の仲卸会社とも取引あり、西欧資本のホテルが水産エコラベルの認証商品を求めていることも知っていることから大いに興味を示し、後者ではマグロの加工でMSCに取り組むことを検討しており、参考にしたいとのことでした。
MELアジアの展開の足がかりの一つとして、引き続き接触を保ちます。
7.良いニュースがありました。
MELのアンバサダーをお願いしております榎本 光宏様より勤務先のベイシア様(関東を中心に1都14県でショッピングセンターを展開)で、MEL認証を取得しておられる嶋治水産様(和歌山県有田市)の「上乾ちりめん」、「釜揚げしらす」が店頭化されたとのご連絡をいただきました。しかも当該品は「国立循環器病研究センター」が主宰する「かるしお」認定制度に合格した減塩商品として「国循認定」マークを表示しておられます。
年明け二つの新聞記事に注目しました。
一つ目は、EUの気象情報機関「コペルニクス気象変動サービス」が10日に発表した、2024年の世界の平均気温が「パリ協定」の気温上昇抑制目標である産業革命前比1.5℃を超え1.6℃となったことです。地球温暖化の深刻さは増していると受け止めざるを得ません。当然陸だけではなく海の問題でもあります。
二つ目は1月12日日経新聞日曜版の1面トップを飾った「養殖魚、牛肉を超え豚に迫る」です。「養殖業などの水産食料システムは食料安全保障に重要な役割を担う」という昨年9月のG20の農相の共同宣言とともに、水産物の養殖が畜産物に比べ温暖化抑制の視点からも重要であることを指摘しています。日本ではまだ養殖魚介類は天然採捕に及びませんが、メディアを賑わす年になる予感がします。
課題が多い年、皆様とご一緒に情報を共有しながら前に進みたいと念じています。
以上