MELニュース2024年11月 第80号

霜月は、汗ばむ陽気かと思えばマフラーに厚手のコートが要る日が交互にやってくる爽秋らしくない季節感でした。
日米だけでなく、G7全体に拡がった政治の不安定さは民主主義の危機を予感させます。多分に政治的駆け引きと思える為政者の我儘が蔓延しており、国連の機能不全が指摘される中、世界全体をまとめる価値観の喪失とともにリーダーの不在は深刻です。せめて日本はノーベル平和賞受賞国にふさわしい平和を希求する国つくりを通し、Look East=世界の範たる社会の実現を願っています。

1.国際標準化関連

このところ国際会議は専らWeb会議となっていますが、11日にたまたまASMI主催のアラスカシーフードトレードセミナー開催に当り来日したAllen Kimball氏(ASMI会長、CSC理事)、Jeremy Woodrow(ASMI Executive Director、CSC理事)と現在進めているMELとCSC(アメリカRFMのスキームオーナー)のCoC認証の相互承認につき対面で議論しました。先日のWeb会議で積み残した双方の考えの違いにつき、特に如何にして重複を避け、無駄のコストをかけないかを詰めました。Kimball氏がCSC幹部に伝え議論することになりました。また、水産物認証制度に関するアメリカの戦略の一旦が披露され、これから更に大きな動きに拡がることが予感されました。

2.認証発効関連

今月の認証発効は漁業は0、養殖は1件でしたが、CoCは4件でした。

3.認証取得者からのご報告

今月は日本の内水面サケ・マス養殖のリーダーである(株)林養魚場の養魚部部長石田 信哉様に発展の歴史とご苦労の一端を披露いただきました。

「阿武隈川メイプルサーモン」の販売開始から16年を迎えて

株式会社 林養魚場 養魚部部長
石田 信哉

弊社は1935年に創業し、来年で創立90年を迎える国内でも最古参の内水面サケマス養魚場です。魚の養殖から加工・販売、管理釣り場と飲食店の経営、養殖資材の輸入・販売、RAS(循環濾過養殖システム)プラントの運営・設計・コンサルタント等を行っております。本社がある西郷村は福島県中通りの南部に位置し、那須連山からの豊富な伏流水と清涼な阿武隈川水系の水を使って主にニジマスの養殖を行っております。現在ではグループ会社、合弁会社合わせて、かけ流し式の養魚場が国内に5箇所、RASプラントが5箇所、建設中もしくは設計中のRASプラントが数カ所、管理釣り場が5箇所あります。

さかのぼること26年前の1998年8月、ここ西郷村に大水害が襲います。溢れた川の水が養魚場を飲み込むか、水の取り込み口が詰まり水が全く取水できなくなるかで村内全ての養魚場が壊滅状態になりました。ところが弊社の社訓でもある「やれるんだ!できるんだ!!頑張れるんだ!!!」のもと、何か苦難があっても挑戦する精神で翌日から復旧作業に入り、この1年後に「阿武隈川メイプルサーモン」の開発に乗り出したのです。苦節10年、2008年に開催のシーフードショーにて初披露を行いました。その直後から料理人の方々やバイヤーの方々のいわゆる横の繋がりで全国に広がり、一時は魚が足りない時期もあったくらいです。
そんな順調な最中、今度は誰も想像がつかない事態が襲います。さかのぼること13年前の2011年3月、東日本大震災によってもたらされた原発事故です。直後から福島県内のほぼすべての水産物は緊急時モニタリング検査によってチェックされ、安全性が担保されたもののみが消費者の口に入る仕組みになりました。弊社のメイプルサーモンをはじめとしたニジマスも当初から検査を続けており安全性はお墨付きです。しかし、弊社は原発から直線距離で約80kmと離れていること、さらに飼育している水は海水ではなく淡水であるにも関わらず、いわゆる風評被害によって売上が激減しました。今まで以上の営業力と風評払拭へのテコ入れによってある程度までは売上が戻ってきましたが、さらなる付加価値が必要との判断に至りました。そんな中MEL認証と出会い、新たな付加価値として2023年6月にニジマスとして国内で初めて取得させて頂きました。
今日ではメイプルサーモンの鮮度感や身質・味、弊社一貫生産の安心安全性、通年出荷可能等のメリットからたくさんのシェフや料理長様、バイヤー様に高評価を頂き、外食様から中食様、量販店様まで幅広くお使い頂いております。
最後になりますが、「阿武隈川メイプルサーモン」を日頃よりご厚意頂いている皆様、MEL協議会の皆様、諸先生をはじめご助言頂いた皆様に改めて御礼申し上げます。今後ともご指導ご鞭撻のほど、宜しくお願い申し上げます。

石田様有難うございました。「やれるんだ!できるんだ!!頑張れるんだ!!!」が胸に響きました。サケ・マスの養殖事業における淡水での飼育技術の重要性に鑑み、貴社の活動が拡大しつつある日本のサケ・マス養殖業の底上げに貢献いただけることを願っています。貴社の益々のご発展をお祈りします。

4.関係者のコラム

今月のコラムは、市場流通の活性化に取組んで居られる(株)ホウスイ社長伊藤 晴彦様(中央魚類前社長)に、描かれる姿と課題につき熱い思いを語っていただきました。

「水産物流通を活性化したい」

(株)ホウスイ
代表取締役社長 伊藤 晴彦

豊洲市場の水産物取扱量は昨年29万5千トンで、前年比5%減少し、2010年比で55%迄落ち込んでいます。国内水産物需要減少と共に水温上昇を一つの要因として全国的な魚の不漁で入荷が減少しています。単価上昇も響いています。
東京都中央卸売市場の23年の水産物平均価格は1キログラムあたり1496円と前年比10%上昇し、10年前からは84%値上がりです。一般生活者には手が出にくい価格になりつつあります。海外需要が旺盛な事も加えて、この傾向は強まるばかりです。
話が変わって冷蔵庫倉庫業界には不動産リート等の新カテゴリーの方々が新規参入されてきました。関東地区だけで今後3年間で47万トンと実に関東地区既存冷蔵庫の11%にもなる規模である。冷蔵庫業界に黒船襲来の様相である。10年程前に常温倉庫で起きた賃料引下げ合戦が冷蔵倉庫でも起こる事は仮説シナリオの一つである。
この様な状況の中で何をすべきか?一つ目は魚の価値、情報を正確に伝える事です。産地、漁獲日、漁法、加工日、加工地等です。この事が不透明ですと安全性にも課題が残ります。デジタル化が遅れている所が多い事が大きな課題です。二つ目は正確な物流です。扱う水産物が減少していく中で、我々に求められる事は何か?弊社グループ調査では海外から入荷する水産物で6か所もの倉庫を通じて最終ユーザーに届くケースもあります。情報を基にした正確な物流、及びサービスの拡充は市場流通、倉庫業界に高いニーズがあると考えております。
この様な状況の中、当社のテーマは“すべての見える化“であります。このテーマに当てはめると。生産、卸業、仲卸業、保管業、配送業、センター業、そしてユーザー等のそれぞれの立場の業務がある中でそれぞれの持つ情報が現在は分断されています。これを繋ぎ合わせて、皆で活用し合う仕組みを構築する必要性があると強く感じております。これにより、情報の共有化によるトレーサビリティの開示、物流の最適化に繋がると考えております。これがMELが目指す世界への我々のお役立ち策です。
我々はMELの活動に強く賛同しております。限りある水産物を有効にしていくには一定のルールの中で運用される事が大事です。そしてMELがGSSI認証を取得された事によるメリットは会員と関係者だけでなく水産業に関わる全ての人にとって大きな意味を持ちます。水産物の持続可能な利用を通じて長く価値ある水産物を我々が食していきたい気持ちです。
そして多くの一般生活者がMELマークを見るだけで、この魚は安全な魚だ、サステイナブルな魚だと感じて頂ける世の中が早く来る事を祈念しております。

伊藤社長有難うございました。伊藤社長が指摘される「すべての見える化」こそ市場流通に求められる明日の姿と認識しました。水産エコラベルの重要な機能としての「究極のトレーサビリティを約束する仕組み」を通して、MEL認証がお役に立てる様頑張ります。どうかよろしくお願いします。

5.イベント関連

秋はイベントのシーズンです。
11月3日に「豊洲市場まつり2024」が豊洲市場まつり実行委員会主催で開催されました。好天に恵まれ、地元の「洲崎東陽太鼓」演奏から始まり、伊藤裕康実行委員長、共催の東京都小池百合子知事の挨拶、また渡邊毅農林事務次官、特別ゲストとして歌舞伎の市川團十郎様の祝辞があり、早山豊東卸組合理事長の発声でセリの合図の鐘で豊洲移転以来はじめての市場まつりが華やかに幕を開けました。「美味結集!市場の元気を皆様へ」をテーマに、様々な催しと共に、飲食、物販が家族連れの皆さんで大賑わいでした。主催者の集計では来場者は5万人、売れすぎて欠品が続出する中、間違いなく多くの皆様と市場の美味、元気が共有されました。MELはブースを出展し、魚好きの皆様に持続可能な水産業の意義を訴えました。とても良い反応でした。

11月4日には全漁連主催の第10回「Fish1グランプリ」がお台場青海で開催されました。前日の「豊洲市場まつり」に続き7万5千人の魚好きの皆様が参加され、晴れのグランプリにはJFみやぎ戸倉Sea Boysの「旨みたっぷりみやぎサーモンと牡蠣のバターピラフ」が選ばれました。今年はMELは出展出来ませんでしたが、来年からは「日本発、世界に認められた水産エコラベル」のついた日本の水産物を訴えたいと願っています。

6.「MEL認証取得者の皆様へむけた実態調査」について

10月18日から11月7日に実施しましたMEL認証取得者の実態調査のアンケート集計がまとまりました。認証取得者の皆様にはお忙しい中ご協力をいただき有難うございました。認証260件中183件(事業者数159)の回答をいただき回答率は70.4%でした。維持していくための難しさはあるものの、概ね前向きに活用していただいていると受け止めました。今後のMEL認証の運営に生かしてまいります。MEL協議会の役割として、持続可能な水産業実現への世界の大きな流れを関係者にしっかりお伝えすることの重要性を改めて認識しました。なお詳細は、いただいたコメントを整理した上MELホームページに掲載しますのでご覧ください。

2024年の世界の平均気温は、パリ協定で合意された目標である産業革命前に較べて1.5℃以上高くなる見通しをEUの気候情報機関が発表しました。折からアゼルバイジャンで開催された気候変動枠組み条約締結国会議COP29は、各国の事情の対立で会期を延長してようやく「気候変動の対策を支援する資金」に関する協議が合意されるという薄氷を踏む結末となりました。アメリカで進んでいる次期政権の人事の報道を見るつけ、地球温暖化抑制は残念ながら多難な明日を予感せざるを得ません。この先も気温の変化が激しい日々が続く様ですが、体調管理には万全を期され年末商戦に備えてください。

以上