秋本番とともに、日本中が政治の季節に一変しました。どんなドラマが待っているか?どうあれ国民が安心して仕事に励み、明日が期待出来る社会の実現を願っています。
秋サケの漁模様が低位に推移していることが気になっています。明らかに北の海の生態系はおかしい。現時点で道東のイワシまで獲れなくなっている。暖水渦の影響と解説され、すっかり考え込まされています。
1.国際標準化関連
GSSIのSOAG(Scheme Owner Advisory Group:GSSI承認済みのMEL を含む7のスキームオーナーにより構成されるGSSI の運営全般にわたる協働機関。なお、承認スキーム数はBIMが減少して7となった)のオンライン会議が10月9日午前0時(ヨーロッパと北米と日本の3地域全員が都合の良い時間がない)より行われました。本部からはエイビン イーレCEOも参加し、今後のMOCA(承認継続審査)の手順の説明と審査費用の値上げ(20%アップ)の告知がありました。また、2025年に行う予定のGSSIのベンチマーク改定は軽微になる予定であることが報告されましたが、MEL協議会としては科学的根拠に乏しい同種同属を含む飼料使用禁止については改定に向け働きかけを継続します。
10月1-3日タイのバンコックで開催されたSEAFDEC(東南アジア漁業開発センター:ASEAN加盟10ヶ国および日本により構成される国際機関;本部バンコック;日本は予算の20%の負担し、事務局次長他専門家を派遣している)とJICAの共催による「東南アジアの水産物に対するトレーサビリティと有効な管理ツールに関する地域トレーニング」に加藤事務局長が招聘され講演をしました。以下は加藤事務局長からの報告です。日本発の水産エコラベルに関する 紹介を東南アジア9か国(加盟10国のうちシンガポールが欠席)の水産行政担当官(漁獲証明書発効担当等)に対して行いました。2時間の講演では、世界の水産業の現状と日本での水産改革を含めたMEL認証の紹介を行い、最後に日本発の水産エコラベル普及の肝として、MEL協議会が提唱する5つのポイントを東南アジアの方々と共有することが出来、参加の意義があったと受け止めました。
2.認証発効関連
今月の認証発効は、養殖1件となります。福岡市漁業協同組合様がカキ養殖で認証され、これで、今からシーズンを迎えるマガキの生産段階認証取得者は4件となりました。
3.認証取得者からのご報告
今月は、新年早々の地震と先月の集中豪雨にも心が折れず頑張っておられる皆様の声をお届けしたいと、富山湾のしろえびで認証を取得された新湊漁協監事の野口様にお願いしました。
持続可能な「しろえび漁」を目指して
新湊漁業協同組合 監事 野口 和宏
富山県、能登半島の付け根付近の射水市にある新湊漁業協同組合(以下JF新湊)は、定置網漁・かご縄漁・小型機船底曳網漁などが盛んです。なかでも、私の所属する小型機船底曳網漁では“富山湾の宝石”とも呼ばれる、“しろえび”を漁獲しています。しろえびを専業でおこなう漁は世界でも富山湾のみで成り立ち、富山湾内でもしろえび漁をおこなっているのはJF新湊と、お隣のとやま市漁業協同組合(岩瀬支所)の2拠点のみです。
JF新湊のしろえび漁漁船は現在8隻いますが、一部のグループでは昭和40年~50年代から“プール制(水揚げ金額の均等分配)”を導入し、2010年からはしろえび漁をおこなう全船でプール制を導入し、協業共生で漁をおこなっています。
プール制を導入した経緯は、しろえび漁の漁場が狭く効率的に漁をおこなう目的もありますが、なによりも、“過度な競争を避け乱獲を防ぐ”ことに主眼を置き“持続可能なしろえび漁”を目指しています。私たちの先人は本能的に資源保護の重要性を認識し、私たちにプール制という漁の仕組みを残していってくれたのです。
このように持続可能なしろえび漁に取組むJF新湊のしろえびを、もっと広めていきたい想いでMEL漁業認証の取得に取り掛かり、令和6年1月に認証を取得することができました。認証取得にあたり、富山県農林水産部・富山県農林水産総合技術センター水産研究所・射水市産業経済部・富山県漁業協同組合連合会に、支援・協力を頂き厚くお礼申し上げます。
ご存じのように令和6年元旦に能登半島地震が発生し、新湊漁港区域は液状化の被害を受け、また富山湾においては海底崩落も発生しました。その影響からか、今年度のしろえび漁は歴史的な不漁が続いております。今後は、MEL漁業認証取得にあたり評価頂いたプール制などの自主的な資源保護になお一層に取組み、しろえびの資源回復に努め、豊かな富山湾を次世代につなげていきたいです。
野口監事、様々なダメージを受けられた中有り難うございました。皆様の自主管理による自助努力を嬉しく伺いました。自然相手の難しさを克服し、一日でも早く元の姿に戻られることをお祈りします。また、現在進行中のCoC認証取得が付加価値向上につながることを期待しております。
4.関係者のコラム
このコラムには多くの有識者の皆様に登場いただき、MELニュースを意味深くしていただいており、感謝に堪えません。今月は、東京海洋大学前副学長 東海 正名誉教授にお願いし、編集子の心配への貴重な示唆をいただきました。
「環境変動に対応した取り組みをサポートすること」
東京海洋大学名誉教授
東海 正
水産業に限らずあらゆる場面で、「今まで上手くできていたのだから、何も変える必要はないじゃないか!」や「何かあったらどうしてくれるのですか?(だから何もしなくても良いじゃないか!)」といった言葉を聞くことがある。まさに行動経済学でいうところの現状維持バイアス(変化を避けて現状維持を求める心理傾向)を表すセリフである。しかし、何も変えないでいると、周りの進歩、発展や環境の変化に置いていかれるリスクがあることも考えたい。
水産業をめぐる社会情勢、自然環境は絶えず大きく変化している。世界的に政情やエネルギー供給が不安定な状況に加えて、日本経済にとって大きな影響を及ぼす円安のことなどもある。特に、水産業をめぐる自然環境では、地球温暖化とともに海に大きな環境変動が生じている。つまり長期的にわずかずつ水温が上昇していることに加え、最近の黒潮強勢による環境が変化しており、特に東北や北海道の太平洋側はこの影響が顕著なようだ。
具体的には、日本近海での海水温の上昇応じて、魚の分布が大きく変わり、サンマ、スルメイカ、サケが獲れなくなっていると考えられている。東日本大震災の復興に関連してお付き合いさせていただいている東北沿岸の漁業、養殖業の現場の方々からは、「獲れる魚種が変わってきて困っている。」や「水温が高くて養殖が上手くいかないので、種類を変えようと思っている」といった声を聞いている。生産現場に近いところでは、こうした変化に対応しようと積極的に動き始めているようにも思え、冒頭で述べた現状維持バイアスなど言っていられない切迫感すら感じられる。
このような環境変動によって、重要対象種、特に地域ブランドにしている魚種が不漁となれば、水産業だけに限らず地域の飲食店や観光産業を含めて地域経済にとって大きな痛手となる。一方で、タチウオやトラフグなどが西日本で獲れなくなっているのに対して東北太平洋側では漁獲が増加している。また東北・北海道ではスルメイカに変わってケンサキイカが漁獲され、さけ定置網にブリが大量に入ったりもしている。こうした獲れる魚を代替として漁獲せざるを得ないとき、あるいは養殖対象種を変えるとき、その変化に生産現場だけでなく加工・流通も含めて各段階がついていけるかが問われる。漁業では漁獲技術の移転が必要な場合もあり、また魚市場に水揚げ可能かを心配することもあり、本格的に獲って水揚げするのに少し時間を要する。この水揚げを受け入れる魚市場をはじめ流通の方々も、これまで見かけなかった魚種について、販売先を見つけ出すことなど流通の構築に相当の努力が求められる。魚を食べる文化と風土は一朝一夕で形成されたものではないために、地元食材として定着して、地産地消に至るのはより難しいところもある。さらに、水産資源の評価と管理は、まず評価自体がデータの蓄積を必要とするためさらに時間を要し、管理となるとさらにその先となる。このように変化への対応には、各段階で相当に意識して努力と時間を積み重ねることになる。ひとりの研究者としては,こうしたことに技術開発や研究,例えば水産業のDX化などを通じて,できるだけ支援していきたいと考えている。
地球環境における気候変動(いまや海洋環境変動とは表裏一体であることは知られている)は、これまでも人類の生命、生活、特に第一次産業に大きな影響を与えてきた。いまの地球温暖化とは真逆の北大西洋における寒冷化の事例ではあるが、 B・フェイガン著「歴史を変えた気候変動」(東郷えりか、桃井緑美子訳、河出文庫)には、気候変動が及ぼした水産業への影響がひとつの章として、北大西洋で11世紀以降に北極地方が寒冷化してタラの分布が南下することで、グリーンランドで村が消え、タラ漁場を探し求めてヨーロッパ人がニューファンドランドなど北アメリカに至るまでが描かれている。気候変動によって産業構造に大きな変革が起きたことを表している。
日本でも,気候変動の「緩和」策とともに、「海洋環境の変化に対応した漁業の在り方に関する検討会」が対応の方向性を取りまとめている(令和5年度水産白書第3章参照https://www.jfa.maff.go.jp/j/kikaku/wpaper/R5/attach/pdf/240611-7.pdf)。例えば、漁業に対しては「漁法・魚種の追加・転換、サケに依拠する定置網の操業転換、養殖業との兼業化・転換などの推進」が、また養殖業では「ニーズやコストを踏まえた兼業先・転換先の選択」が、魚種の変更・拡大に対応し得る加工・流通として「水産エコラベル等の推進や輸出先国のニーズに対応したサプライチェーンの構築による新たな魚種を含めた輸出対策の強化」が、そして魚種・漁法の複合化等の取組を行う経営体の確保・育成とそれを支える人材・漁協として「複合化等に取り組む漁業者をサポートする体制や仕組みの整備」が挙げられている(太字指定は水産白書のまま)。これらもまたある種の産業構造の変革を促しているようにも見える。
現在のマリン・エコラベル・ジャパンの認証制度では、漁業では対象とする水産物の資源量、養殖業では対象とする養殖水産物の適切な飼育管理、加工・流通では認証された水産物のトレーサビリティの確保が、それぞれ要件に挙げられている。実際には、漁業や養殖業では、具体的な生物種名を挙げて認証を受けている。すでに、この「気候変動と水産物認証」については、MELニュース第75号(2024年6月)で大関氏によって懸念事項も指摘されているように、もし対象魚種が獲れなくなった場合に、認証は一時停止として取り扱われる可能性もある。漁業認証においては、資源状態が限界管理基準値(Blimit)まで悪化した場合には認証の一時停止といった扱いが規定されているが、上述したような環境変動に伴う分布の変化は漁獲量の大きな減少を伴うものの必ずしも乱獲状態ではない可能性もある。それに応じた審査方法は容易ではないものの、検討が必要にも思える。また、認証制度は、認証を取得したら終わりではなく、実際には認証基準を満たす取り組みを継続する必要があり、これを確認するための年次審査・更新審査が行われる。これは、認証を受けた側における継続的な業務改善・経営改善を目指す取り組みを促すものと位置付けられている。また、認証証書に記載される事項には、認証の適用範囲として、漁法および対象魚種等が記載される。もしも同一漁法で対象魚種を変えた取り組みがあれば、更新審査で適用範囲の修正などができるようであれば、認証を継続できるのではないかと考えたりもする。いずれにしても、水産庁の検討会取りまとめの最後に書かれた「サポートする体制や仕組みの整備」のひとつとして、水産エコラベル認証は、漁業、養殖業、加工・流通の各段階において、環境変化に対応してなされる改善、取り組み、変革を促すものであってもらいたい。
東海先生、ご多用の中貴重な示唆を有り難うございました。今後のMELの活動に反映させていただきます。認証制度を取り巻く環境も急激に変っており、MEL協議会として認証を取得された事業者の皆様とご一緒に変化に遅れないよう頑張っています。どうか引き続きご指導を賜わります様お願い申し上げます。
5.MEL審査員研修を実施しました
今回の審査員研修会は、新規審査員養成プログラムであり9名の方に参加いただきました。オンラインではなくリアルでの実施かつ、参加者も実務のプロの方々であり国際標準のスキームとして審査能力を高めることに取り組むMEL協議会としてはとても良い研修会になったと受け止めました。
現在、MELの審査員補以上の資格を持つ方は全国に82名おり、日々の認証審査業務を担っていただいていきます。複数の認証に重複する方もありますが、内訳は、漁業認証63名(指定指導員5名、審査員8名、審査員補50名)、養殖認証75名(指定指導員16名、審査員2名、審査員補57名)、CoC認証78名(指定指導員25名、審査員19名、審査員補34名)です。審査員補の皆様の数が多いことが気にかかります。
6.出前授業を行いました
大日本水産会が実施するお魚普及活動と連動した小学生への出前授業が実現しました。
今回は、10月11日に神奈川県の鎌倉市立第Ⅰ小学校に出向き、5年生の4組にそれぞれ「日本の水産業と海洋環境問題を考えて見ましょう」をタイトルにお話をしました。
各組とも、担任の先生がとても熱心に事前準備をされており充実した授業になりました。担任の先生の指導の反映でしょうか、組毎に組の個性があると言うのは新しい発見でした。
実物の魚に触れさせて欲しいと言う学校からの要請で、海の天然魚の代表でカツオ、養殖魚の代表でマダイ、淡水魚の代表でアユのいずれもMEL認証の魚を持参しましたが、生徒の男女を問わず反応の高さに驚きました。魚は好き、でもいかに日頃丸の魚に触れる体験がないかの表れでしょう。今後も機会を見て継続します。
7.イベント関連
TSSS2024(東京サステナブルシーフードサミット)が8~10日東京国際フォーラムで開催されました。第1回を2015年11月に開催以来、今年は10回の節目の会で内外から1400名が参加する大イベントになりました。今年のテーマである「2030年、サステナブルシーフードを主流に」が実感される熱気でした。MELは今回の目玉のセッションである「日本の水産業はどこに向かうのか」を、大日本水産会枝元会長、全漁連坂本会長、東京大学八木教授、臼福本店臼井社長、MEL協議会垣添のメンバーが主催者であるシフードレガシーの花岡社長のモデレートの元、それぞれの立場からの意見を交わしました。日本の水産業が、日本の持つ強み、魅力を生かし新しい成長に挑戦する姿が浮かび上がりました。
21日に(株)クラダシ様が主催される「食のサステナビリティ共創・協働フォーラム」に招かれ、「水産エコラベルが社会のお役に立つために」をテーマに講演しました。水産庁からも加工流通課の吉川課長補佐が「水産資源の持続的利用に向けて」をタイトルに登壇され、食品関係の皆様に日本の水産業が抱える問題と取り組みを理解いただく良い機会となりました。
訪日外国人数および消費額が1-9月で既に昨年年間を上回っており、年間では過去最高となる見込みと報道されています。俗にインバウンドと言われる外国人の目当ての一つは日本での「食体験」であり、水産物は正にその主役です。訪日客数が、ヨーロッパの観光大国スペインやイタリアのレベルに届くことが期待される中、確実に機会を活かす水産業でありたいと願っています。
夏バテならぬ「秋バテ」が拡がっているとか。日本列島、北は初雪、西は夏日という気温の変化が激しい日々が続いていますが、どうか体調崩されない様活躍されますことをお祈りします。
以上