MELニュース2024年9月 第78号

能登半島地震の被災地をまたも襲った不条理な豪雨禍には胸が痛みます。亡くなられた方のご冥福と被災された方に心からお見舞いを申し上げます。
福島第一原発の処理水の海洋放出への反発で始まった中国の日本産水産物の全面輸入禁止が、IAEAの枠組みの下緩和される見通しが発表されました。政治的駆け引きの材料になっているだけに、楽観は許されませんが一日も早く正常化されることを期待します。
月末月初の台風10号は、3つのキーワード「迷走」、「停滞」、「遠隔降雨」で日本列島ほぼ全域に様々な爪痕を残しました。専門家は原因の一つに海水温の高さ、しかも水深50mでも高いことを上げており、この常態化は水産業にとり深刻な問題です。それでも、良いニュースとしてカツオに続きサンマ漁の好スタートが嬉しく受け止められています。日本人にとり、季節の魚が季節に獲れる幸せを久々に感じました。これから本格的なシーズンになる秋サケは不漁の予報ですが、第二のカツオ、サンマになって欲しいと願っています。

1.国際標準化関連

GSSIの新事務局体制はようやく動き始めました。新事務局長のIhle氏に早期の訪日を求めていますが、まだ実現の目途はたっていません。
一方、来年3月に開催予定のSeafood EXPO North AmericaにおけるGSSIセッションへの登壇を求めてきているといった状況です。
MEL協議会は、9月4-6日シンガポールでのSeafood EXPO Asiaに出展すると同時に、5日に開催されたセミナーに加藤雅也事務局長が登壇しました。シンガポールはボストン、バルセロナと比較して小規模ですが、アジアとの関係が強まっているMEL協議会にとり重要な機会であったと受け止めています。以下、事務局長と共に出張した秋本課長の報告です。
9月4-6日にシンガポールで開催されたシーフードEXPOアジア2024に参加しました。水産庁補助事業である「持続的な水産資源利用確立事業」の一環として大日本水産会が実施する企画にMEL協議会が参加したもので、MELはブースを出展するとともに、加藤事務局長がセミナーに登壇して日本の現状をプレゼンテーションしました。46ヶ国から345の事業者が出展し、その中でも日本からは日本パビリオンの33社を含む40社が参加し、目立った存在感を示しました。MELが日本のサステナブルシーフードの証として、輸出促進のお役に立てることを願っています。

2.認証発効関連

9月の認証発効は養殖1件CoC1件の合計2件でした。

3.認証取得者からの報告

今月は高知県宿毛湾でブリヒラの養殖に注力しておられるクロシオ水産様の川路 昇様にご報告をいただきました。

宿毛湾で「ブリヒラ」の養殖への挑戦

㈱クロシオ水産
川路 昇

当社は前身の(有)クロシオ水産として1989年に創業して以降、豊後水道から黒潮が流れ込み、豊かな山々からの栄養供給が多いことで知られる宿毛湾に生簀を構え、地の利を最大限に生かして魚類養殖を営んでいます。四国西南部の豊かな自然環境で、独自のノウハウにより飼育生産している「黒潮の極」は高い品質評価をいただき、全国の市場、鮮魚専門店、百貨店で取り扱われています。


自然環境のなかで行なわれる養殖事業にとって、良好な海洋環境を維持、保全していくことは必須の課題であり、また、国内外に訴求力を持った養殖業者として発信し続けるためには、国際的に認められた認証が不可欠である考え、  昨年末、マダイ・ブリ・ブリヒラの3魚種でMEL認証を取得いたしました。
認証取得以前より、海底環境への配慮や残餌量の少なさから全ての餌を独自のエクストルーデッドペレットとしている他、近年は、持続性の観点から魚粉比率の少ない飼料を積極的に採用しております。
特に注力している魚は「ブリヒラ」です。「ブリヒラ」は、養殖用 種苗(稚魚)生産技術において世界的な研究機関である近畿大学水産研究所が、異なる魚の性質を受け継ぐ交雑魚研究のなかで、ブリ(雌)とヒラマサ(雄)の交配により開発した完全養殖の魚です。ブリの旨味・脂乗りとヒラマサの美しさ・歯ごたえを“いいとこどり“した魚として、また天然の漁獲に頼らない持続可能な養殖魚種として、多方面から大変多くの引き合いを頂いております。
昨今の養殖業を取り巻く環境は大変厳しいものではありますが、これまで培った経験と、新たな知見や先進技術の積極的な導入により、これからも変わらずご愛顧いただけるよう、努力を続けて参ります。
今後MEL認証が国内、海外に広く浸透し、認証を取得することで海と産者、消費者の生活と食を守ることにつながる大きなスキームになって行く事を期待します。

川路様有り難うございました。農業では品種改良で、野菜も果物も新品種が次々登場し人気を博していますが、なぜか水産では交雑新魚種は拡がりにくい。ご苦労が伝わって来ます。是非、美味と共に持続可能性を備えた完全養殖魚として成功していただきたいと願っています。

4.関係者のコラム

MEL協議会にとり、小売業の認証取得が進まない中、上部団体であリ、かつMEL協議会の会員でもある全国ス―パーマーケット協会様に今月のコラムを担当いただきました。流通業から見た、日本発の水産エコラベルであるMELへの期待と課題に対する村尾事務局長の論考と関係者への取材です。

「スーパーマーケットを通じ消費者の認知度を高めたい」

一般社団法人全国スーパーマーケット協会
事務局長 村尾 芳久

我々、(一社)全国スーパーマーケット協会が、この(一社)MEL協議会に参加させていただいているのには、いくつか理由があります。ご存じの通り、我々の正会員であるスーパーマーケットを経営する企業は、食卓に並ぶ食品の多くを、消費者の皆さまに提供しています。

青果物、畜産物、水産物、お惣菜、日配商品、加工食品、等々を、原料として、加工品として、あるいはそのままの形で鮮度の良いものを、その特性にあわせて、提供しています。
食卓事情多様化から、素材としての水産物の消費が減少し、畜産物の需要が多くなったり、提供する形態も、惣菜のような調理済みで即食性の高い商品の需要が高まっているというような、消費の嗜好の変化は起こっています。
一般的には、水産物の摂取は健康に役立つ、優秀な食材として評価されており、日本人はこれを昔から積極的に食べてきました。そのような背景があるにもかかわらず、水産物の消費量が世界の流れと逆行して減少しています。また、漁業従事者や生産者等提供する立場からみれば、養殖事業が発展してきているとはいうものの世界的な資源保護の観点から考えると決して満足できるような状況にはないと感じています。水産物の安定した供給は、日本人の健康や食文化を守るだけでなく、輸出産業としての期待も大きいものだと思います。
話しが少し大きくなりましたが、この認証制度の意義と認証に関する情報をスーパーマーケットに提供すること、逆にスーパーマーケットでの活用実績や課題をMEL協議会にフィードバックすることで、よりMEL認証が使いやすいものとなることが、我々業界団体の役目であり参加している理由ではないかと考えています。
そこで、ここでは当協会の正会員である「イトーヨーカ堂」様に小売業としての取組や課題について、お話を伺い、その中から業界団体である協会の役割について考えてみたいと思います。

【1】 MEL認証を取得するきっかけ

  • 元々は鮮魚の「顔が見えるお魚。」商品での取り組みからスタート
  • 2016年からASC認証商品、2018年からMSC認証商品の販売を開始
  • 2019年、セブン&アイグループ環境宣言『GREEN CHALLENGE 2050』を公表。

イトーヨーカ堂では、大手小売業としては初めてMEL認証を取得し、2020年から国産の4魚種からスタートし9魚種まで拡大

【2】MEL認証を取得した小売業としての活用方法と今後

  • 企業として自然共生社会(持続可能な調達)を目指し、取り組みを消費者にアピール。
    店頭でのPOP等を通じて消費者へ持続可能な商品の価値を伝えている。
  • 海外からの商品はMSC、ASC認証商品の販売、国産の水産物はMEL認証商品という使い分け
  • 消費者への認知度のアップと認証商品の取組強化

※コスト面でいえば決してプラスとは言えない取組で、消費者に理解されないと厳しいが、お取引先である生産者や漁業従事者の方から「イトーヨーカ堂さんがやるなら、MEL認証をとりましょう」と言ってもらえたことが、今の力になっている、「生産者さんと一緒に、この先も美味しい魚をお客様に提供し続けるために、MEL認証を取得することは、単なる『取引』ではなく『取り組み』である」、と担当の方からお話を伺いました。この話は、小売業と生産者方々との関係性についての、我々業界団体の役割を考えるうえで大変重要なことではないかと思いました。
最初に触れたように、スーパーマーケットは最終的に消費者に食品をお届けする役割を担っています。水産物について言えば、今回のMEL認証をはじめとする世界基準の認証の取得や認証商品の積極的な取り扱いは、食料としての水産資源の継続的活用をする意味において大切なことだと思います。国内のスーパーマーケットの各企業において、国内の水産資源の持続可能な活用を前提としたMEL認証の理解は、社会的にもインフラ的役割を果たすスーパーマーケットにとって、重要なことではないかと思います。このことは事例のほんの一つに過ぎないのかもわかりませんが、スーパーマーケット各企業の独自でのMEL認証の取得や認証商品の取り扱いの拡大は、大事なことでしょう。業界団体としての我々は、少しでも多くのスーパーマーケットの企業に、そのことについての機会を提供することと、この活動をスーパーマーケットとスーパーマーケットに水産物を提供する事業者の方々との接点を多く作り出すことになるのではないかと感じています。

村尾様有り難うございました。協会の事務所にお邪魔し、三浦専務もご一緒にお話しをさせていただいた内容そのままを今回の寄稿に反映しました。協会と会員の皆様の益々の発展をお祈りします。
MELは引き続き消費者の皆様の共感が得られ、小売業様のお役に立てる様進化をしますのでどうかよろしくお願いします。

5.イベント関連

今年の夏MELが参加または主催したイベントについて、担当責任者の小林由香里係長より報告します。テーマは「子どもたちにMELを通して持続可能な社会を学んでもらう」です。

No. 開催日 イベント名
01 6/7(金)~7/31(水) MELって何だろう展
02 7/15(月・祝) 海の日プロジェクト
03 7/27日(土) 朝小さまーなび
04・06 8/7(水)、8/27(火) MELおやこ教室
05 8/21(水)~23(金) ジャパンインターナショナルシーフードショー

01.主婦会館プラザF ロビー展示

6月7日(金)~7月31日(水)まで東京都千代田区主婦会館プラザエフ1階にて「MELって何だろう 未来につなげよう海と魚と魚食文化」展を開催し、マークの紹介と共にMEL認証水産物を実物に近い形で展示しました。

02.海の日プロジェクト

海の日記念行事として7月15日(月・祝)に東京国際クルーズターミナルで開催された「海の日プロジェクトin青海」にブース出展しました。イベントの中心は自動車船と海保の測量船の観覧、オープニングは海洋政策担当大臣と国交大臣の挨拶(総理のビデオメッセージも)で、出展者も海運関係がほとんどでした。
来場者は意外に多くが詰めかけ親子連れがほとんどで、水産関係はMELが唯一だったためかMELブースにたくさん集まっていただくことができました。

03.朝小さまーなび

7月27日(土)朝日小学生新聞の夏休みイベント「朝小さまーなび@大阪科学技術館2024」にて1時間ほどの授業「MEL(メル)って知ってる?水産エコラベルを通して私たちができること」を4回行いました。MEL公式アンバサダーのさかひこ氏の動画から、なかなか見ることができない養殖現場でのAIを駆使した管理方法等を保護者とともに、大変楽しそうに見ていただけました。配布した冊子に学んだことを書き込んで夏休みの自由研究として提出してもらうこともできます。

04. 06. MELおやこ教室

8月7日(水)及び8月27日(火)の2回にわたり今年で3回目となる親子教室を実施しました。夏休みの自由研究となるよう、お子さんには絵を描いたり工作を楽しんでもらい、保護者の方が待っている間にMEL認証のより詳しい説明を聞いてもらいます。

05.  第26回ジャパンインターナショナルシーフードショー

魚食普及推進センターが主催する親子おさかな学習会に参加したみなさんにMELブースにて認証水産物イラストを使用した釣りゲームやMELの感想を描いてもらいました。

今年もたくさんのお子さんにMEL認証を学んでいただきました。お魚が大好きだからこそ能動的によりよい社会となる取り組みとしてMELの仕組みを真剣に聞いてくれました。この様な多くの機会をくださった各主催者の皆さまに、御礼を申し上げます。

観測史上最も遅い猛暑日が来る日も来る日も続きました。彼岸を過ぎて、流石の猛暑も一息入れるのでしょうか?
9月13日に豊洲市場で開催されました共同船舶のナガス鯨の品見会に行ってきました。外国メディアも含め、600人を超える出席者で大賑わいの会場の主役「半世紀ぶりの国産ナガス鯨」は、新母船「関鯨丸」での処理風景ビデオと共に大いに存在感がありました。日本の食文化の伝統であり、終戦後の日本人の飢えをしのぐ貴重な役回りを務め、その後の高度成長期までの食卓を賑わしたクジラ肉と将来に向かってどう付き合うか、重たい問題として考えさせられました。
因みに、試食に供されたナガス鯨の尾の身,赤肉、畝須、本皮いずれも絶品で、しばしノスタルジアに浸りました。
厳しいことが山積ですが、大谷 翔平選手をはじめ世界で活躍する日本人アスリートに負けない様、私達水産人も頑張りましょう。皆様のご健勝とご活躍をお祈りします。

以上