MELニュース2024年8月 第77号

記録的暑さが続く中、8月も実に様々なことが起きました。世界も日本も、政治、経済、社会のどれも制禦が難しい事態に陥っているかに見えます。
セーヌ川を舞台に始まった雨の開会式に続くアスリートの躍動、またフランスが発した政治的、社会的、文化的メッセージに感じられる民族主義の匂いの中、パリ・オリンピックが幕を閉じ、パラリンピックにバトンが渡されました。
残念ながらオリンピック期間中の停戦が実現するどころか、むしろ広がってしまいました。スポーツ記録映画の傑作とされる「民族の祭典」は、1936年のベルリン・オリンピックの記録として制作されました。それから間もなく90年、平和の祭典の盛り上がりの場には、どう見ても「民族の争い」はふさわしくありません。報復の連鎖を止める人類の叡智が求められています。

1.国際標準化関連

MEL認証に関するアジアからの問い合わせが増えています。
MEL協議会は、9月4-6日にシンガポールで開催される「Seafood EXPO Asia」に出展すると共に、MELの活動を紹介するセミナーを行う準備をしています。
先月30日に、日本からサケの加工を受託しているベトナムの2社についてMEL CoC認証が発効しました。MELにとって、初めての海外企業のCoC認証の発効となりました。今後この様なケースが増えることが予想されます。
現在詰めを進めているアメリカCSCとのCoC認証の相互承認とともに、今回のシンガポールのSeafood EXPO Asia への出展およびセミナー開催がMELの海外での拡がりに弾みを付けることを思い描いています。

2.認証発効関連

今月のMEL認証発効はゼロになる見込みです。特に理由はありませんが、たまたまとなってしまったと受け止めています。引き続き認証取得促進の活動には力を入れて参ります。

3.認証取得者のご報告

今月は「坂越かき」の名前で地域ブランド確立を、MEL認証取得をテコに進めておられる赤穂市漁業協同組合の大河 優組合長に取り組み状況につきご報告いただきました。

「MEL認証を活用した更なる地域ブランド化について」

赤穂市漁業協同組合 代表理事組合長 大河 優

坂越地区での牡蠣養殖の歴史は、1974年(昭和49年)頃から、当時は漁船漁業主力であった漁業形態に変化をもたらすべく開始されました。年々生産量は増加し、近年は500㌧(剥き身換算量)程度の生産規模となっており、赤穂市漁業協同組合の基幹漁業となっております。
牡蠣養殖の更なる飛躍のために、近年、地域ブランド化の推進に力を入れているところに、取引先よりMEL認証を取得し、更なる地域ブランドの確立に取り組まないかとの提案があり、認証に向けた取り組みが始まりました。認証制度は、これからの漁業生産活動に必須となるであろうと考え、当組合での団体認証を取得となりました。
私たちの生産する「坂越かき」は、1年牡蠣と呼ばれ、毎年5月頃に種付けされた牡蠣が、その年の11月頃から出荷が始まり、翌年の4月頃には生産を終えることとなります。市場からの評価は、癖が無く甘みが強い等、高評価が多く、この度のMEL認証取得により、更に私たちの生産する牡蠣が安心・安全なものである事のPRとなることを期待しております。
しかし、消費者、市場関係者に対してMEL認証を認知してもらうための取組を、継続して行っていかなければならないと考えております。MEL認証が生産者の安心・安全への取組の信頼の証となり、環境に配慮した持続的な生産活動への取組も、消費者に理解してもらうことにより、更なる地域ブランドの確立につながると思います。
最後に、MEL認証を取得した「坂越かき」が生産者と消費者を繋ぎ、生産者の活動が消費者に、もっと理解してもらうことに繋がっていけば、認証取得して、生産を行って行く最大の意義になるのではないかと思います。

大河組合長有り難うございました。MEL協議会の目指す活動のひとつは、認証取得者の商品の販促をお手伝いすることです。今月21-23日に開催されました第26回ジャパン・インターナショナル・シーフードショーでも、MELは水産エコラベルコーナーに出展し、認証商品の展示と来場者への紹介を積極的に行いました。赤穂市漁協様に出品いただいた「坂越かき」も、事務局の秋本が丁寧に説明し、来場者から注目されたことをご報告します。
「坂越かき」ブランドの発展を通し、赤穂市漁協様の更なる繁栄をお祈りします。

4.関係者のコラム

今月は、日本の水産業を守るための国際交渉の最前線で日本政府代表をお務めいただいた先達のお一人である島 一雄様にお願いし、MELのこれからへの示唆をいただきました。ご高承の通り、島様は水産庁次長を務められた他、IWC(国際捕鯨委員会)日本政府代表、ICNAF(北大西洋漁業国際委員会)日本政府代表、INPFC(北太平洋漁業国際委員会)執行委員長、日本水産資源保護協会会長、海洋水産資源開発センター理事長等々を歴任された文字通りのレジェンドであります。写真掲載は固辞されましたので、益々お元気でいらっしゃることをご報告申し上げます。

「MELよ 羽ばたけ」

島 一雄

2007年に大日本水産会の一事業として発足したマリン・エコラベル・ジャパン(MEL)は2016年に設立された一般社団法人マリン・エコラベル・ジャパン協議会がその事業を継承発展させた。その間MELは2019年Global Sustainable Seafood Initiative(GSSI)から承認され、さらに2023年にはGSSIから新たな基準(Benchmark Tool Version 2 )により承認された。これによりMELはFAO の定める「水産エコラベルのガイドライン」に合致し、その公平性、透明性が担保され、広く国際社会に受け入れられるスキームであると大手を振って活動できるようになった。この困難な作業に尽力された垣添MEL会長はじめ関係者の方々に敬意を表したい。
そもそも水産エコラベル認証制度の考えのきっかけとなったのは、ICNAF(北西大西洋漁業国際委員会)において、各国入り乱れて操業するカナダ沖のグランドバンク漁場において乱獲のため資源が枯渇、長期にわたる全面禁漁が実施されたことにその端を発していると言われる。その問題に最初に取り組んだのが、捕鯨問題で勇名を馳せたWWF(世界自然保護基金)で、1996年に食品会社ユニリバーと共同で非営利団体であるMSC (Marine Stewardship Council 海洋管理協議会)を設立、英国に本部を置き持続可能な漁業を実施する漁業者に対し認証を発給する活動を開始した。1998年に認定基準が策定され、本格的に活動を開始した。さらに活動の場を加工流通にまで広げMSCが持続可能な水産物と認めた水産物についてはMSC認証マークが付けられる。
今日では世界の天然漁獲物の12%がMSC認証を受けた漁船により漁獲された漁獲物であると言われている。日本においてMSCが活動を開始したのは2006年であるが、日本におけるMSC認証の普及には時間が掛っている。
2015年国連で2030年を目標とするSDGs(持続可能な開発目標)が採択され、目下世界はそれに向けて懸命な努力が続けられている。水産の分野では「海の豊かさを守ろう」と言う目標に向けて活動を行っており、水産エコラベルはこの目標達成の有効な手段と期待されており、国も水産庁に認証推進班を置き、認証取得促進を含め認証事業に力を入れている。MELは格好の活動の場が与えられているといえよう。
今日の様に認証事業が確固たる地位を確立するまでには紆余曲折の道のりを経てきており、一朝一夕に出来たものでない。高瀬大水専務(元水産庁審議官)も「MSCの初期の頃は日本の行政は欧米の価値観の押しつけと捉えられる傾向にあった」と述べているし、野村一郎元FAO水産局長も退任後MSCの評議員になった際、業界紙の記者から「野村さんも環境団体のメンバーになったんだね」と揶揄されたことをみても水産認証に対する日本の世論の状況を窺い知ることが出来よう。
かつて水産エコラベル発祥の地であるイギリスで、日本の企業がトラブルに巻き込まれたことがあった。イギリスの企業が日本の取引先に対しエコラベル認証を使って、日本が捕鯨を続けることに圧力をかけて来たケースである。
取引先のグループ企業が捕鯨に関与しているということを理由に、持続可能な製品とは認めないと脅した。既に水産エコラベルが普及していたイギリスで、エコラベルの表示が認められないことは事実上その企業の製品の輸入禁止である。最終的には、日本は捕鯨業の仕組みと運営会社の株主構成を変えることで対処したが、相応の痛みを伴った。鯨の製品に水産エコラベルのロゴを表示するということならいざ知らず、自分の価値観を押しつける何とも理不尽な要求であった。かつて捕鯨大国であったイギリスは鯨がお嫌いのようだが、現在小規模ながら捕鯨をやっているノルウエー、アイスランド、グリーンランド、ロシア、アメリカ等からの水産物の英国市場への輸出はどのようにして行われているのであろうか。
世界では鯨は人間の食べ物にあらずとして限りなく人類の食生活から遠ざけるように動いているように見えるが、それでよいのであろうか。世界の海面漁業の総生産量は20世紀の末に9千万トンのレベルに達して以来レベルオフとなっている。一方大隅 清治・田村 力の推計によると世界の海洋での鯨類による年間水産物消費量は2億8千万~5億トンであり、世界の海面漁業の総生産量の3~6倍に相当する。FAOも鯨類を含めた総合的な海面の利用の調査研究に力を注ぐべきであろう。鯨肉は栄養的価値の高い美味な食品である。

島様有り難うございました。改めて島様の著作「あさきゆめみし」(INPFC執行委員長として勤務されたバンクーバーでの3年間、1985年2月農林統計出版)、「えひもせす・ん」(「あさきゆめみし」の続編として、先輩からの継承と後輩への示唆のまとめ、2012年12月農林統計出版)、「理は我が方にあり」(国際漁業交渉を顧みて、2013年9月農林統計出版)を読み返させていただきました。諸先輩のご苦労の一端を引継いでいるMEL会長の責務の重大さを感じています。

5.イベント関連

7月29日に主婦連様の食料部、環境部、社会部の学習会「漁業の今と未来を考える2024」にお招きいただきました。昨年はMELアドバイザリーボード座長の松田裕之先生と垣添が登壇しましたが、今年は同じくMELアドバイザリーボードメンバーの牧野光琢先生と垣添の組み合わせで登壇しました。
牧野先生から「水産業と女性、そして持続可能な海洋環境」を、垣添からは「おいしい魚を食べ続けられるために」をタイトルに、主婦連会館会議室およびオンラインで2時間余りにわたりたっぷり魚の話を共有しました。暑い中多くの方に来場いただき、特に牧野先生の女性の水産現場での活躍等の話題で大いに盛り上がりました。

8月21-23日に大日本水産会主催の「第26回ジャパン・インターナショナル・シーフードショー」に出展しました。今年も会場の一角に水産エコラベルコーナーを設けていただきMEL協議会の他、愛南漁協様、ヨンキュウ様、林養魚場様、マル伊商店様、オカムラ食品工業様が出展されました。MELコーナー以外にも、クニヒロ様、南予ビージョイ様、辻水産様、さかもと様、徳島魚市場様、ダイニチ様、朝日共販様、日本遠洋旋網漁協様、ニチモウ様、極洋様、ニッスイ様が独自にあるいは県のブースに出展され盛況でした。海外に本部を置くMSC、ASC、BAP、アラスカRFMも出展され、積極的な活動が行われました。

同じく21日に、会場で大日本水産会主催の「MEL認証取得推進のための懇談会」を開催しました。66名の方に参加いただき、MEL運営に関し貴重なご意見をいただきました。協議会運営に活かして参ります。
有り難うございました。

また、同じく21日に日水資様、海生研様共催による「MEL認証証書授与式」が行われました。13社・団体の授証者に参加いただき、各社・団体の代表者から胸に響くコミットメントをいただきました。終了後、懇親会も設定され、認証取得者、審査機関、スキームオーナー間で濃い、コミュニケーションの場を共有できました。もちろん、これからも様々な困難はあるかと思いますが、日本の持続可能な水産業をご一緒に実現する輪の拡がりを嬉しく感じました。

お盆は台風と地震に振り回されました。自然災害への備えは、一時BCP(災害時の事業継続計画)として皆様準備と訓練をされたかと思います。もうマニュアルの在処すら定かではないではいけません。「天災は忘れた頃にやってくる(寺田寅彦)」を噛み締めて下さい。先週はシーフードショー、MEL認証取得促進のための懇談会、MEL認証証書授与式とイベントが続きましたが、その分多くの方とお話が出来、刺激をいただいてとても有意義でした。
これから秋に向けご一緒に頑張りたいと願っています。

以上