新紙幣の流通開始とともに盛り上がった渋澤(津田、北里)ブームは、「後発進取」をもって欧米を追いかけた、明治人の活力にあやかりたいと言う令和の時代に生きる人々の願望を物語っている様に思えます。
MELが、日本においてもうひとつ実感がなかった「水産資源の持続的利用」を、関係の皆様と共に「日本発の世界が認める水産エコラベル」として一定の前進が出来たのは、「後発進取」の明治人のDNAの継承が日本にあったからではないかと受け止めています。先達に負けない様頑張ります。
予報通り暑い夏がやって来ました。既に6月末から始まっている西日本の赤潮被害や今後の高水温による養殖水産物の斃死、生育不良等が更に拡がらないことを祈るばかりです。
1.国際標準化関連
GSSIに於いて事務局長(CEO)とスタッフの交代があり、その引き継ぎに忙殺されている様でご報告すべき大きな動きはありませんでした。
若干気掛かりなのは、スタッフの交代が頻繁なことです。高い専門性と社会、スキームオーナーとの信頼関係が求められる仕事だけに、スタッフの定着は重要であり、新CEOには安定したチーム結成と運営をお願いしたいと思います。
2.認証発効関連
今月の認証発効は養殖3件、CoC 3件の計6件でした。認証発効件数は久しぶりにまとまりました。問い合わせや認証申請受付件数は増えてきており今後に期待しています。
3.認証取得者からのご報告
今月は、紀州大島でマダイ等の養殖に取組んで居られる大瀬戸水産の社長大瀬戸 拓様にお願いしました。大瀬戸水産様は、養殖環境に恵まれた紀州大島で家族経営の事業を行なっておられ、大規模ではありませんが、マダイの種苗は近畿大学より購入、種苗認証のSCSAを取得する等、皆様から美味しいと評価されることに拘った経営を実践されています。
「美味しいマダイを作る」
有限会社大瀬戸水産 代表取締役 大瀬戸 拓
取締役 大瀬戸 創
はじめまして。和歌山県串本町大島で水産養殖業を営んでいる大瀬戸水産です。弊社は1948年の創業以降、トロール船での底引き網漁から養殖業と、獲る漁業から育む漁業へ時代に応じて事業展開してまいりました。現在は、マダイやシマアジ、イサキを中心とした養殖をしております。
昨今、地球温暖化や海洋汚染によって、従来よりも魚を飼いづらくなっているように感じております。夏季の海水温上昇は、魚の成長不良や大量死を招きやすい環境を作り出しており、飼料の原料となる魚についても、漁獲不良となり、飼料価格が高騰している状態です。
そんな中、10年ほど前からSDGsが謳われ始めました。特にここ2~3年でサステナブルな養殖の必要性も問われてまいりました。未来に豊かな海を残すための持続可能な取り組みです。
弊社では2008年に農林水産省のJAS規格第1号を取得して以降、先んじて自然環境に配慮した養殖業に取り組んでまいりました。今回のMEL認証の取得では、その弊社の取り組みを証明することができ、弊社の商品により価値を付けてくれるのではないかと期待しております。
MEL認証を広げていくためには、美味しい魚を作り続けていくことが大前提と考えます。どれだけMEL認証に適う取り組みをしていても、美味しくなければお客様に召し上がっていただくことができません。MEL認証の認知度を高め、弊社の取り組みを知っていただくためにも“さかなファースト”をモットーにサステナブルな養殖業によって美味しい魚を作り続けてまいります。弊社の取り組みによってMEL認証に貢献できるよう励んでまいります。
大瀬戸様有り難うございました。「さかなファースト」にふさわしい良い環境で倫理観と質の高い養殖を、ファミリー企業ならでは力の結集で続けられることをお祈りします。余談ですが、編集子は今から数十年前紀州大島にあったニッスイの捕鯨事業場に勤務したことがあり、写真の背景は正に往時のなつかしいその場所です。きれいな水と良い潮通し、恵まれた環境を最大に活かしてください。
4.関係者のコラム
今月はシーフードレガシーの山内愛子副社長にお願いしました。日経ESGと共に主催されるTSSS(東京サステナブルシーフード・サミット)が今秋に10回を迎える節目に当り、日本のサステナブルな社会をリードしてこられた山内様に10年を振り返っていただきました。
「TSSSで日本の水産業の10年を振り返る」
(株)シーフードレガシー
副社長 山内 愛子
株式会社シーフードレガシーは2024年10月8日から10日にかけて、東京サステナブルシーフード・サミット(以下、TSSS)2024を、東京の国際フォーラムにて日経ESGと共同開催します。
TSSSは2015年以来、日本を中心とするサステナブルシーフード・ムーブメントの成長を象徴する、アジア最大級のフラッグシップ・イベントとなるべく開催され、いよいよ10回目という節目を迎えます。第10回TSSSでは、これまでムーブメントの軌跡をステークホルダーの皆様と共に振り返り、発展を祝い合い、SDGs達成目標年である2030年へ向けた新たな共通の絵を描き共有する、そんなイベントになるよう日々準備を進めています。これまでも垣添会長のご登壇をはじめ、会場でブースを設置していただくなど、日本の水産業の重要なステークホルダーとして、MEL協議会様にもご参加いただいて参りました。
今回、寄稿の機会をいただき、日本のサステナブルシーフード・ムーブメントを振り返りながら執筆を進める中で、7月16日に「太平洋クロマグロの資源量は12年で約10倍、13年前倒しで目標を達成」という大きなニュースが入ってきました。
約10年前、第1回のTSSSが開催された2015年当時、太平洋クロマグロの資源状況は、初期資源量(漁業を開始する以前の推定資源量)に対して約4%程度にまで減少してしまったと科学委員会から指摘され、早急かつ厳しい資源回復措置の導入と実施が課題となっていました。特に日本は、太平洋クロマグロの生産量、消費量がともに世界最大であったことから国際的に大きな責任を負い、国内外でそのリーダーシップが問われていました。
現在もまだ安心して太平洋クロマグロ資源を利用するための課題は残されていますが、行政、漁業者、研究者、流通関係者、NGOなどの多様なステークホルダーが「太平洋クロマグロを回復させる」という同じ目的に向けて努力を惜しまなかったこの10年は、日本の水産業がサステナブル・シーフードを語る際に極めて重要な経験になったと確信しています。
日本の水産業の10年間を振り返ると、国際資源である太平洋クロマグロの回復以外にも多くの成果を挙げることができます。例えば、TSSSでも2018年、「資源評価や資源管理の強化、IUU(違法、無報告、無規制)漁業対策」という基調講演を設けさせていただき、当時の水産庁長官より日本が向かう水産行政の方向性を広く共有いただきました。
実際に2018年には歴史的な漁業法改正が行われた結果、国際的なスタンダードであった「漁獲戦略」や「管理基準値」といった考え方が政策に導入されました。そのため国としての資源管理目標が明確に示され、あわせて目標達成のための管理手法がより客観的な数量管理中心に移行しました。サステナブル・シーフードという観点から見れば、国産の水産物の持続可能性を担保するためにこの改革はプラスに働いており、新たな市場価値を生む可能性をもたらしています。また、IUU漁業対策についても、欧州や米国で進んでいた輸入水産物への厳しい検証を盛り込んだ「特定水産動植物等の国内流通の適正化等に関する法律(以下、水産流通適正化法)」が2022年に施行されました。
水産流通適正化法は、日本市場をIUU水産物のリスクから守るだけではなく、欧州、米国と並ぶ国際的な水産市場である日本が国際的なIUU漁業対策に責任をもって参画することを意味し、大きな期待が寄せられています。さらに長く魚価の低迷に悩む漁業者にとっては、IUU水産物との不公正な市場競争にさらされる状況を改善し、また、流通関係者もIUU由来の水産物を調達するといった国際的な違法行為への加担リスクを軽減できることから、多くのステークホルダーにとって歓迎されました。
TSSSでは毎年、基調講演やパネルディスカッションを通じてこれら新たな枠組みに関する情報や進捗を関係各所よりご提供いただき、課題や解決に向けた議論を展開していただきました。
サステナブルシーフード・ムーブメントの大きな流れとして、忘れてはならないのは日本の水産物関連企業による取り組みの進展があります。まだまだ日本では「サステナブル・シーフード」という言葉すら十分に浸透していなかった中でスタートした2015年当時、TSSSに参加し、取り組みを発表いただいた日本企業は少なかったことを覚えています。しかし、近年では持続可能な水産物調達方針を公表し、事業における実質的な改善に取り組む企業が増えたことで、TSSSはご登壇者も含めたプログラムの内容がアジア最大級のフラッグシップ・イベントを謳うに相応しいものへと成長しています。
とかく企業の取り組みは100点満点が求められがちですが、TSSSでは実効性を持つためにサプライヤーを中心としたパートナーの理解と協力を得た経験や、実際の取り組みの中での困難な課題、上手くいかなかった点も含めてオープンに共有をいただきました。ステークホルダーであるオーディエンスからは大変有用であったと評価をいただくことも多く、登壇者の皆様に感謝しています。
この10年で、水産物サプライチェーンにおける環境デューデリジェンスや人権デューデリジェンスは国際的な流れであるとともに、各企業の事業の継続においても避けては通れない課題として日本でも浸透しつつあります。環境問題や社会問題の複雑さおよびその課題の大きさを考えると、日本の水産業界はこれまで各企業が個別に取り組んできた成果を下地として、今後は共通の課題解決やより良い社会を実現するために、業態や競争関係を超えて共に努力をするステージの入口に立っています。
今年10回目を迎えるTSSSでは、「サステナブル・シーフードを主流に」というテーマを掲げさせていただいております。この10年間、日本の水産業が歩んできた道程は決して平坦なものではなかったと実感していますが、2030年に向けてこれまでの日本の歩みを国内で浸透させ、さらなる高みを目指すためには、多くのステークホルダーが参加し、共通する持続可能な水産業という目標に向かって是々非々で透明性をもって対話できる社会が必要です。
世界有数の水産企業が本社を構え、世界第3位の輸入水産物市場である日 を握っています。ここで日本が課題解決に向けた国際的なリーダーシップを率先して取ることは、結果的に日本の水産業を回復させ、持続的成長へと導く重要なアプローチであるとシーフードレガシーは考えています。
日本の成功や失敗といった経験を参加者がしっかり共有することで、環境持続性や社会的責任の追求におけるフロントランナーとして日本のムーブメントが根付くとともに、そうしたムーブメントを牽引できるようなプラットフォームとしてTSSSが今後も成長できますよう、MEL協議会およびMEL認証を取得される皆様をはじめ、この業界に携わる多くの皆様と共に歩んでいけることを願っております。
<東京サステナブルシーフード・サミット2024開催概要>
日時:2024年10月8日(火)、9日(水)、10日(木)
会場:東京国際フォーラム ホールB7
参加費:無料(要事前登録)
主催:株式会社シーフードレガシー、日経ESG
共催:米ディヴィッド&ルシール・パッカード財団、米ウォルトンファミリー財団
詳細・申込み:https://sustainableseafoodnow.com/2024/
山内様有り難うございました。丁寧に10年の出来事を辿っていただき、ステークホルダーの行動が大きな流れつくりにつながった事実を改めて実感しました。ステークホルダーの拡がりが、ムーブメントを更に大きくかつ強くすることを確信します。MEL協議会も、認証を取得された皆様とご一緒に行動させて頂きたいと願っています。(株)シーフードレガシー様の牽引の下、TSSSの更なる発展をお祈り申し上げます。
5.昨年度の「MEL認証水産物の水揚げ量」がまとまりました
毎年、認証取得者の皆様にご協力いただき調査を実施しています。
昨年度(2023年度)のMEL生産段階認証対象水産物の水揚げ量は下表の通りです。数量は45.5万tで前年比7.2万t増(18%増)、日本全体の生産量に対する比率は12%(前年は10%)となりました。
MELロゴつき商品につては、現在精査中です。認証取得者の皆様にはご多用の中、協力いただき有り難うございます。
6.MEL審査員研修(CPD研修)を実施しました
認証審査の質的レベルを維持、向上するため、毎年3回(内2回はCPD、1回は新規審査員養成)実施している研修会の本年度第1回目です。
ZOOMを使用したオンライン形式の研修会で、11名に参加がありました。今回は、MELがGSSIの新基準(Global Benchmark Tool Ver.2.0)で世界で2番目に承認され、国際標準認証スキームの立場になったことを意識したカリキュラムにしました。特に、
- 最新の情報の共有、
- ZOOMのブレークアウトルーム機能を使った審査の演習
- 審査報告書作成において、英訳版が公開され海外関係者のチェックにも堪えられる科学的根拠を示すこと
等に念を入れました。
講師は、適合の判定基準を青木恒享様(テクノファ技術顧問)および永澤由香様(日水資)、漁業認証を田中栄次先生(東京海洋大学名誉教授)および遠藤進様(日水資)、養殖認証を舞田正志先生(東京海洋大学教授)および矢野雅様(日水資)、CoCを中原尚知先生(東京海洋大学教授)および桑原伸司様(日水資)にお務めいただきました。
CPD=スキルアップ研修にふさわしい内容であったと受け止めています。猛暑の中、参加いただいた審査員の皆様、講師をお務めいただいた先生方に深謝申し上げます。
7.マーケット関連
マーケットにとり厳しい環境が続いていますが、今月は、海の日、さかなの日、半夏生、お盆、土用丑の日等々様々なイベントがあり、小売、外食とも販促に力が入りました。消費者サイドは実質賃金が伸びない中、生活防衛意識が高まっていることが各種調査で顕在化しており、消費拡大の点では悩ましいところです。一方、このところ流通の皆様から水産エコラベルを取得し販促に生かしたいとのご相談が増えており、スキームオーナーとして前向きに受け止め対応しています。
8.イベント関連
海の日記念行事では、7月15日(日)に東京国際クルーズターミナルで開催された「海の日プロジェクトin青海」にブース出展しました。
イベントの中心は自動車船と海保の測量船の観覧、オープニングは海洋政策担当大臣と国交大臣の挨拶(総理のビデオメッセージも)だけのコンパクトなもので、出展者も海運関係がほとんどでした。
来場者は意外に多くが詰めかけ親子連れがほとんどで、水産関係はMELが唯一だったためかMELブースには大勢が詰めかけ、グッズにも親子問わず集まっていました。事務局一同、水産エコラベルへの関心を高めるにために声を嗄らして説明に努めた結果、インスタグラムのフォロワー数も130名ほど増えました。
7月17-18日に、(一財)マリンオープンイノベーション機構主催の「BlueEconomy EXPO」が静岡県清水市で開催されました。沿岸漁業のスマート化に繋がると思われるORNIS社による海洋レーダーシステムの展示と現物を見学してきました。海洋レーダーによる海洋データの取得と利用は既に宮崎県他で実施されその効果が確認されていますが、ORNIS社は松本 徹三社長率いるスタートアップとして、全国展開を目指しています。近々始る静岡県内4カ所のレーダー拠点の実稼動を待って、研究機関、事業者およびメディアへの公開が行われる予定です。
7月23日に、焼津市で開催されましたJETRO静岡主催(焼津市共催)の水産物輸出促進セミナーにお招きをいただき、水産エコラベルセミナーとしてMEL認証について、加藤事務局長、秋本課長が講演しました。出席者は事業者だけでなく、行政、漁協と幅広く、質問も多く出て好評でした。
8月21-23日に、大日本水産会主催の第26回ジャパン・インターナショナル・シーフードショーが東京ビッグサイトで開催されます。MEL協議会はお馴染みになりました水産エコラベルコーナーに出展します。MELブースでは認証商品の展示を行うとともに、水産エコラベルコーナーにはMEL認証取得の4社・団体が出展されますので、ぜひお立ち寄りください。
また、シーフードショー初日の8月21日(水)13:30よりセミナーB会場で、大日本水産会主催で「MEL認証取得推進のための懇談会」-水産新時代を生き抜く―をテーマにMELが取組中の規格改正のご説明とともに、事業者の皆様と意見交換させていただくことを企画しています。皆様の参加をお待ちしています。
参加申し込み:https://www.melj.jp/3547
先頃公開された令和5年度水産白書の巻頭の特集は「海業」です。水産を「私獲る人・作る人、私食べる人」の捉え方から、日本の持つ多様性を国民の参加によってより広くまた深く生かす方向に踏み込んだ点で大いに意味があると受け止めています。ただ「美味しい不味い」で食べているだけでは自然の持つ価値は実感できない、直接手を触れてこそ生まれる魅力に共感いただけることを願っています。
関係者のコラムで山内様が触れておられますが、北海道の釧路で開催されていたWCPFC(中西部太平洋まぐろ類委員会)の北小委員会において、2025年からのクロマグロの漁獲枠の増枠が合意されました。日本の漁獲枠は大型が50%、小型が10%増になります。秋に開催される年次総会で正式に決定され、25年1月から適用されます。枠を遵守するため、現場で起きている様々な不合理が些かでも改善につながる明るいニュースです。関係された行政、事業者の皆様の努力に敬意を表すると共に資源管理の成功例として喜びたいと思います。
今年も、梅雨末期の集中豪雨が各地に深刻な被害を与えました。被災された皆様に心からお見舞いを申し上げますと共に、一日も早い立直りをお祈りします。
暑い夏に負けず、元気でご活躍されることをお祈りします。
以上