遅めの梅雨入りとなりました。5つの輪に込められた崇高な理念である「平和」が実現の気配を見せないまま、パリ五輪が近付きつつあります。間もなく世界はつかの間の熱気に包まれることでしょう。
6月11日に開催された水政審において、日本の商業捕鯨にナガス鯨の追加が承認されました。久し振りに捕鯨に関する議論が盛り上がりを見せる気配です。
新捕鯨母船「関鯨丸」の処女航海のニタリ鯨の鯨肉が市場に届き、温度管理された室内でオゾン水を使った滅菌環境で解剖、裁割、冷凍された高品質の製品に期待がかかります。日本が守りたい鯨食文化と反捕鯨の議論が再び先鋭化しないことを願っています。
1.国際標準化関連
GSSIは、6月4日新CEO(MELは今まで事務局長と表現してきた)にØyvind Ihle(エイビン イーレ)氏が就任したことを公表しました。3代目の事務局長(CEO)になります。Øyvind Ihle氏はノルウェー出身で、海洋機能性物質や栄養、また養殖関連分野にも造詣の深いビジネスマンと紹介されています。日本に関する知見は不明ですが、出来るだけ早く来日を実現し日本に関する理解を深めていただきたいと思っています。
2.通常総会を開催しました
第10回MEL協議会通常総会を6月19日に開催しました。団体の総会のハイシーズンの中ですが、水産庁から吉川加工流通課課長補佐に出席(藤田次長のご挨拶を代読)をいただきました。
決議事項として、令和5年度の事業報告と収支決算が承認されました。また本年は、全理事および監事の改選期に当り、出身の企業、団体の人事により全水卸の網野様から吉田様、シジシ―ジャパンの野崎様から川上様のお二人の交代と他の皆様の重任が承認されました。退任された網野様、野崎様には、賜わりましたMEL協議会へのご尽力に深謝申上げます。
報告事項として、令和6年度の事業計画、収支予算を報告しました。
総会終了後、第37回理事会を開催しました。総会で承認されました理事のうち、垣添会長、長岡専務の選任をご承認いただきました。また事務局長が冠野尚教から加藤雅也へ交代することが承認されました。新事務局長の加藤に対し、冠野同様のお引き回しを賜わりますようお願い申し上げます。
報告事項として、➀マネージメントレビューに関するご説明、②養殖規格の改訂につき報告いたしました。
新年度はすでに動き始めていますが、ご承認いただいた事業計画に沿い、新事務局体制で取り組みますのでどうかよろしくお願いします。
3.「MEL養殖規格2.1」発効について
MELホームページに掲載していますが、2024年6月1日付けで「MEL養殖認証規格Ver.2.1」が発効しました。
JABからの指摘に応えるもので、規格の改正や改定ではなく「認証の範囲」および「認証の区分」の定義を明確に規格本文に記載しました。また、「適合判定基準(審査の手引き)養殖認定規格Ver.2.1」については、それぞれの原則の審査基準の変更はありませんが、審査に関わる解説文を分りやすく修正または補足説明しました。審査機関による運用開始は2024年9月1日以降を予定しています。
4.認証発効関連
今月の認証発効はCoC1件と低迷したままです(この他、発効手続き中の案件が5件あります)。国庫補助事業である認証取得支援コンサルティングの枠はまだ余裕がありますので、皆様の応募をお待ちしています。
5.認証事業者からのご報告
陸上養殖が注目を浴びる中、海藻の陸上養殖に取組んでおられる理研食品様の佐藤 陽一取締役に状況をご報告いただきました。
「陸上養殖生産によるスジアオノリのMEL取得」
理研食品株式会社
取締役・原料事業部長 佐藤陽一
理研食品株式会社は、親会社の理研ビタミン株式会社が掲げる海藻事業 ブランド「ときめき海藻屋」の活動方針のもとで、これまでのわかめを中心とした研究および商品開発を、多くの海藻に広げる取り組みを進めています。(https://www.tokimeki-kaisouya.jp/)
その一環として、2021年10月に岩手県陸前高田市において海藻類陸上養殖施設「陸前高田ベース」を開設し、第一弾の品目として緑藻スジアオノリ(以下アオノリ)の養殖生産を開始しました。生産の肝となる種苗生産手法「胞子集塊化法」およびアオノリの成長に合わせて水槽を拡大させる「多段式養殖法」は、これらを開発した高知大学の平岡雅規教授との2016年からの共同研究によって技術習得と生産レベルの向上を図ってまいりました。
また、事業場所については、長年わかめ原料でお世話になっている広田湾漁協様より陸前高田市役所をご紹介いただき、当社の事業内容をご理解いただき市有地での実施を許可いただきました。幸い良質の海水にも恵まれ、稼働3年半が経過した2024年6月現在、ほぼ当初計画通りの生産に到達しつつあります。生産工程としては、屋内で約3週間かけて生産した種苗を、屋外の水槽に移して1週間ごとに水槽サイズを大きなものに移して約4週間養殖します。収穫した原料はすぐに併設した工場内において十分に洗浄し、脱水して網に並べて一昼夜乾燥させます。アオノリは香りが命ですので、香気成分が飛ばないように冷風除湿乾燥を行っています。乾燥後は金属探知機を通した後に、水分の吸湿を極力抑えるために除湿室にて梱包します。現在は業務用原料としての加工業者様への販売や、地元漁協に販売してのお土産品にご利用いただいています。
海藻類の陸上養殖は、アオノリに代表されるように近年の海水温度の上昇や環境の変化によって天然採取や漁場養殖の変動が激しい生産量を安定させるための技術として開発され、今では多くの事業者が生産に取り組んでいます。当社の特長は、1年を通して安定した生産を可能にしたこと、そして陸上養殖によって得られる原料の品質向上を目指した取り組みを積み重ねていることです。長年のわかめの加工で培ったノウハウを活用し、生産工程の管理を徹底しています。この取り組みを広く皆様にご理解いただき、陸上養殖品の品質価値向上にもつなげたいと考え、2023年9月にマリンエコラベルを取得いたしました。海藻類の陸上養殖生産においては国内で初の認証とのことで、大変光栄に感じるとともに、今後の継続した品質向上の取組において身の引き締まる思いです。今後は、BtoBまたはBtoCでの販路においてお客様にMEL認証品であることをご理解いただけるように、CoC認証取得などの取り組みについても検討を進めたいと考えております。
佐藤様有り難うございました。理研ビタミン様および理研食品様のワカメへの情熱を身近で感じて来た編集子として、企業が継承する遺伝子の素晴らしさに感動しました。更なる海藻陸上養殖が拡がることを期待申し上げます。
6.関係者のコラム
気候変動が水産業に深刻な影響を与えています。水研機構の大関芳沖様にお願いし、スキームオーナーとして考えるべきことを示唆いただきました。
「気候変動と水産物認証」
国立研究開発法人 水産研究・教育機構
参与 大関 芳沖
「海が変わった、とれる魚も全く変わってきた」という話をよく聞く。水産関係のニュースにも気候変動や温暖化がセットになっていることが多い。とれる魚種が変わってきたら水産物の漁業認証はどう対応すべきなのか、とても気になっている。
日本は漁業管理がまずいから漁獲量が減っていて、漁業が衰退産業になっているという論調を見るが、漁獲量が減っているのは、日本だけの話ではない。FAOによれば韓国やイタリアでも漁獲量は減少しているし、ドイツでも低位横ばい、ノルウェーでも横ばいであり、増えているのは極東ロシアや公海漁業を拡大している中国ぐらいである。地中海におけるイワシ類の漁獲量は2000年からの20年間で60%も減少している。
世界的な漁獲量の減少に関連して、気候温暖化によって低緯度の魚の分布が 高緯度に移っているという研究成果が多数出されている。魚の生活史と餌の変遷を考えると、生態学的に好適な環境が確保できず、分布量が減っていく魚種も存在している。一方で、我が国の明治以来の漁獲量統計の解析結果から、魚の分布位置の周期的な変化が報告されている(図1)。日本近海では近年、ブリ・サワラ・タチウオなどの分布が北上していることが報道されている一方で、アジア近海のサワラがIUCNの準絶滅危惧種とされた。評価書では瀬戸内海の漁獲量減少には触れられているが、新潟や福井での漁獲量増加には全く触れられていない。短い周期の変動と長期的な気候変動に伴う分布の変化の中で、希少性評価や水産認証はどうあるべきかは重要な問題であろう。
水産物の漁業認証は地域的な漁業の場合が多い。MELでは5月末現在で漁業認証25件のうち16件が地域性漁業となっている。地域的な漁業が海洋の温暖化等による漁獲量減少に直面した場合にどうすべきかは、悩ましい問題である。世界で最多の漁業を認証しているMSCは、資源が外部ショックを受けて再生産の枠が小さくなっても,乱獲防止のため持続的な漁獲まで水準を落とせば認証を維持するように理解される。分布域が近年大きく変わりつつあるタイセイヨウサバでは、ICES内で国別配分が整わないことを理由にMSC認証が停止される一方で、2000年代中盤にニュージーランドのホキ資源量が急減した時には、HCRにより資源量に合わせて漁獲を即時変化させていることから、認証はそのまま継続された。同じことが起きたら、2年のタイムラグがある日本のTACのシステムでは認証を止められるだろう。そもそも日本の漁業管理は、歴史的に沿岸の漁業権管理から出発しており、来遊魚種や分布水域の変化に対応した漁法の変遷とともに、地域ごとの取り決めを変えて規制していく順応的管理が行われてきた。
認証審査団体は影響を受けた魚に対する漁業認証を停止・抹消するだけで済むが、漁業者は何も悪くないのに気候変動で魚がとれなくなったら、経費をかけて受けた漁業認証が停止されるのはなんだかおかしい。認証停止による漁業者に対する補償はどうするのかという議論もありそうに思われる。CoC認証をとって加工流通を行っている事業者も実害を被る。ラベル包装のシステム変更経費や、認証停止とラベル製品出荷のタイムラグについて、消費者への説明も必要となる。一方で資源の持続的利用に参画したいという消費者からすれば、豊富に分布する場所でとられるものと、分布の境界に近いところでわずかにとられているものが同じ認証で市場に並ぶことには疑問を感じる。消費者の選好に生産活動を応援する機能があるとすれば、「気候変動への適応を行っている現場」を積極的に認証するというのもありえる。
気候変動に伴って、「水産物認証は誰のための(何のための)仕組みなのか?」ということがあらためて問われているのかもしれない。ノルウェーでは、ICESでのタイセイヨウサバのMSC認証停止を受けて、MELやASMIに類似した独自の水産物認証設立の動きが始まっているという話も聞こえる。数多く存在する水産物認証制度が、それぞれ違った考えを持っていても全く不思議はないが、対象と目的を明確にしてほしいし、消費者がそれを判別できるほど賢くなる必要があるかもしれない。
図1 漁獲量重心の緯度方向(赤)と経度方向(青)の年変化
(https://www.fra.go.jp/home/kenkyushokai/press/pr2024/20240416_catch_distribution.html)
大関様有り難うございました。ご指摘は多方面に及んでおり、難易度が高いことばかりですが水産エコラベルのスキームオーナーとして、また日本発のスキームとして何が出来るかしっかり考えます。
7.イベント関連
5月29日、大丸有SDGs ACT5フェスティバルの一環として開催されたNIKKEIブルーオーシャン・フォーラムに「2030年サステナブル・シーフード主流化へ―TSSS10年の軌跡」のタイトルでTSSSの共同主催者であるシーフードレガシー社の花岡和佳男氏と他に海外からのオンライン参加のライアン・ビゲロウ氏、ヒュー・トーマス氏と共に登壇しました。花岡氏をモデレータ―として日本におけるサステナブル・シーフードの動きを振り返り、これからについて広範に意見交換しました。会場の丸ビルホールで40名、オンラインで1000名以上の視聴がありました。このところ、この種のイベントへの参加がMELに打診されることが多くなっており、基本的にお受けしています。今回も多数の前向きな反応をいただき、登壇はMELにとり意味あると受け止めています。
8.「夏休み親子教室」を開催します
今年も夏休み企画として「MELおやこ教室」を開催します。事務局員の手作りで、ささやかなイベントですが、毎年参加された方にはとても喜ばれています。会場は東京だけで恐縮ですが、皆様のお知り合いにも紹介いただけると幸いです。
▼詳細と申し込みページ
https://www.melj.jp/oyakokyousitu2024
団体、企業の総会がほぼ終了しました。団体は団体なりに、企業は企業なりに難しい環境に対応し、それぞれ所期の成果を達成されたことと思います。
そして新しい難しい年に向かいます。皆様のチャレンジを心から期待申し上げます。
MELのアンバサダーの一人でありYouTuberの「さかひこ」さんの最新作(自社の若手の従業員と社長へのインタビュー)の原稿の下見をさせていただきましたが、学校(中学、高校、大学)で認証について教えていることが社会の認証への理解拡大につながっているということ、そして事業において商品の評価をする上で認証が一定の存在感を持つ様になっていることの2点を感動をもって受け止めました。間もなくYouTubeに投稿されると思いますが、ポジティブな反応を期待します。
以上