MELニュース2024年4月 第73号

新年度に入り、ビジネス街のそこここに新社会人が目立ちます。昨年11月に亡くなった伊集院 静さんはサントリーのメッセージ広告で「空っぽのグラス諸君、肝心なことは仕事の心棒に触れ、熱を感じること」と新社会人に呼び掛けています。諸君の健闘を祈ります。
MEL協議会も、先月号でご報告致しました通り事務局長交代含みの新体制で新年度を迎えました。加藤 雅也が事務局長代理として事務局メンバーに加わりました。どうかよろしくお願いします。
水産庁加工流通課でも人事異動があり、認証推進班班長の四ヶ所 信之課長補佐が吉川 千景課長補佐に交代しました。四ヶ所様、2年間のご支援に深謝申上げます。新しい部署は資源管理部国際課(東アジア班担当)と伺っておりますが、更なる協働が出来ることを願っています。

1.国際標準化関連

MELはボストンSeafood EXPOに参加しなかったこともあり、3月末にGSSIベンチマーク運営担当とウェブで個別会議を行いました。GSSIに新基準であるベンチマークツールVer.2.0におけるMOCA(継続承認審査)のスケジュールを次の通り確認しました。更新承認日(2023年9月)から1年後の2024年9月に審査準備が始まりますが、2025年1月より自己評価(Self Assessment)及び証拠書類の提出(英訳審査報告書・英訳文書等)が行われる予定です。 また、新々基準であるベンチマークツールVer.3.0向けの改定の準備は、同じく年明けから行われる模様です。
バルセロナで開催されるSeafood EXPOに合わせ、4月24日にGSSIスキームオーナー会議が開催されました。MELからは引き継ぎを兼ねて事務局長(冠野)と事務局長代理(加藤)の2名を派遣し、GSSIの理事、事務局及び他スキームオーナーと面談をしました。
なお、併せて、MELが提案していますBtoB向け「GSSIが承認した『認証スキーム(ロゴマーク)』の告知(タグライン)」についてのガイドラインが正式に発行される予定です。
スキームオーナー会議の詳細は来月号で報告します。

2.認証発効関連

2月、3月と認証発効がありませんでしたが、今月はCoCが3件発効しました。

3.認証取得者からのご報告

今月は鹿児島県の坂下水産様の坂下 勝則会長に、ヒラマサ・カンパチ養殖の餌をモイストペレットからEPに転換する挑戦での現場のご苦労をお話しいただきました。

「ヒラマサ・カンパチのEP給餌化への挑戦」

有限会社坂下水産
取締役会長 坂下勝則

 (有)坂下水産は、ヒラマサを2021年10月導入の稚魚から生餌を使用しない単独EP(配合飼料)で給餌を開始しました。始める際は、餌付けがうまくいくのか、不安なところは正直ありましたが、飼料メーカの協力のもとうまく餌付けすることができ、その後も順調に成長してきました。

そんな中、MEL認証制度についての話を聞き水産資源の持続性や環境に配慮しながら、水産業を営んでいる生産者に認証を与える制度があるということを聞かされ、当社は1999年2月、生産から販売する直営店を立ち上げ6次産業化に努めてきた中で、MEL・CoCの認証の取得考え、2022年8月CoC認証、9月にMEL養殖認証を取得しました。

当社は、ヒラマサ・カンパチの養殖を手掛けています。単独EPに変えた当時はブリ用の配合飼料で、給餌を行っていましたが、MEL認証取得後、飼料メ-カ-の協力によりヒラマサ・カンパチに合った飼料の製造をお願いしてまいりました。1年ほど前からその飼料を使い給餌しています。ヒラマサは、成長よく例年と比べて1カ月程早く成長し、また魚病にも罹りにくい状況です。(今期は、投薬が稚魚期に1回程度、後は出荷まで投薬回数0)現在、低魚粉の単独EPを使用し、成長・品質の検証を試みています。今のところ順調に成長しているところです。

カンパチについても、現在生餌と単独EP併用しながら単独EP化にできないか、試験給餌を行っています。現在のところ成長には、少し疑問を持ちますが、昨年より魚病にも罹らず順調に成長しています。ヒラマサに続けてカンパチもMEL認証の取得を目標にしています。もう少し時間がかかると思いますが諦めず頑張ろうと思います。

またEP化により、給餌時間の大幅な短縮にもつながり、従業員もだいぶ楽になって来ました。冬は寒く、夏は暑い船上での作業は過酷なものがありますが、EP化により時間に余裕が持てるようになり、特に夏場は、休憩時間を長く取ったり、早めに切り上げたり従業員への負担を出来るだけ抑えています。従業員が、楽しく働け、やりがいのある仕事だと思えるような環境作りに努めて行きたいと思います。

また当社で販売しているヒラマサは、お客様からの評判も良く多くのリピ-タがついています。近年SDGsが世界的に取り組まれている中、我々が出来る事をやっていかなければいけないと感じ2023年3月に鹿児島県SDGs登録を行いました。今後も海洋資源の保護、海洋保全に微力ながら努めていきたいと思います。

坂下会長有難うございました。世界の流れであり、水産庁の方針でもある養魚飼料のEP化はぜひ積極的に推進してください。MELもご一緒に頑張ります。

4.関係者からのコラム

今月はMELアドバイザリーボードの牧野光琢先生にご相談し、インドネシアの海洋保全・水産資源管理の第一人者であるインドネシアのSuhendar I. Sachoemar様にお願いし、アジアから見た水産エコラベルにつき報告をいただきました。

「MELと東南アジアの小規模漁業」

Suhendar I. Sachoemar
インドネシア共和国BRIN、ITI教授

MELがGSSIの新規準(グローバル ベンチマーク ツール Ver.2.0)に承認されたことをお慶び申上げます。
MELの認証モデルは、インドネシアの様な豊かな水産資源に恵まれ、かつ小規模漁業者の多い熱帯地方の国々にぴったりの制度です。実際、インドネシアでは漁業者の90%以上が沿岸で漁業をする小規模漁業者です。

MELの認証制度は水産資源の保護に資する仕組みであると期待されています。MELの導入により、IUU漁業や資源の過剰利用、また環境や資源にダメージを与える漁具の使用等が削減更には排除されます。また、養殖分野でも生産の仕組みが環境に優しく、かつ消費者にとり安全であることが求められています。MELの考え方の導入に当たっては、制度を使う国への普及が不可欠です。MELの考え方は、世界の水産物生産者、貿易事業者に受入れられるべきものでありますが、生産者により導入後に問題がないとは言えません。大企業の場合はエコラベルの導入は比較的容易であると思われますが、小規模、中規模事業者にとっては、もし国内外の市場に於いて非認証品より高価格が保証される等の行政による動機づけがなければ極めて難しいと考えられます。

また、MEL認証とイスラム教国へのハラル認証と結びつけることも可能です。
MELの更なる発展をお祈りします。

BRI:National Research and Innovation Agency
PPI:Indonesian Research Association
ITI:Institute Technology of Indonesia

Sachoemar先生有難うございました。ハラル認証と結びつける視点は、今まで全く意識の中にありませんでした。勉強させていただきます。
また、事務局に新たに加わりました加藤 雅也はSEAFDEC/MFRDMD(東南アジア漁業開発センター海洋水産資源開発管理部局)マレーシアに勤務の経験がありますので、アジアとの交流が進むことを期待しております。

5.マネージメントレビュー会議を開催しました

マネージメントレビューは、GSSIの基準(グローバル・ベンチマーク・ツール)でスキームオーナーに実施を求めているもので、この要求に沿いスキームオーナーであるMEL協議会の業務遂行および認定機関、認証機関の活動にについて報告と相互チェックを行なっています。本年は、新たに海生研様が認証機関として、また水産庁から認証班の吉川課長補佐と高地係長がオブザーバーとして出席いただきました。
議論の中で、ロゴマークの使用に関し、認証事業者以外が不作為にあるいは不正にMELロゴマークを使用することを防ぐ仕組みの構築の必要性が提起されました。ロゴマークの使用に関しては、「ロゴマーク使用・管理規程」に基づき運営されていますが、スキームオーナーのMEL協議会として不正使用をチェックする仕組みは持っていません。むしろ性善説を以て対処しようとしています。この件はアドバイザリーボードからも、確立しつつあるMELの価値(信頼という不可欠の無形資産)を著しく毀損する可能性があるとの指摘をいただいています。現在進めているMELロゴの国際商標登録推進と共に仕組みつくりを研究します。

6.イベント関連

3月30-31日に幕張メッセで開催されました「カーボンニュートラルを考える2024」の水産庁ブースに昨年に続いて出展させていただきました。このイベントは総務省、環境省、国土交通省、水産庁、千葉県等が後援する大規模なもので、人気アイドルグループが中央ステージや各ブースに立って販促物配りや説明を行うと言う催しで、大いに盛り上がりました。
水産庁ブースは「さかなの日」をPRし魚食普及を訴え、多くの来場者に水産物の持続可能な利用を推進する水産エコラベルを知っていただく企画で、MELとしては昨年の2倍の約2000名のインスタグラムの直接のフォロワーを獲得しました(アンバサダー経由のフォロワーは約27万名)。
MELのブースを担当して下さったアイドルはモーニング娘。やアンジュルムの皆さんです。多くのファンに囲まれる中、持続可能な水産物について熱心な説明を通して事務局とはひと味違うアイドルならではの影響力を発揮しました。応援としてMELのInstagramアカウントをフォローして下さった方にはMELのエコバッグを差上げましたが、アイドルの力と相まって大変好評でした。

FAOが先に発表した2022年の世界の漁業・養殖生産量は、2億2321万tで前年から416万t、率にして1.9%増加しました。内訳は漁業生産が9229万tで前年比▲0.6%、養殖生産が1億3092万で+3.7%tでした。
世界的に見ても、水産物の生産の伸びは曲がり角にきているように感じます。
漁業による生産は既に頭打となっており、養殖で見ても、環境の保全を考えれば伸びを牽引している中国を中心としたコイ・フナ類の将来が明るいとは思えません。持続可能な水産業を推進することなしには、人類の明日の食料問題はクリア出来ない難しさを抱えています。
24年問題が膨れ上がる中、総務省が先に発表した日本の生産年齢人口(15―64才)は、7395万(2023年10月1日人口推計)と人手不足の深刻さが待った無しとなっていることを示しています。京都大学の森 知也教授によれば、100年後の2120年の日本の人口は江戸時代初期の3000万人まで減少する。政府の目標は8000万人維持ですから、これから100年どのように産業を維持して行くか、産業のサステナビリティに真剣に取り組まなければなければならないと改めて考えています。

課題が山積する新年度、皆様とご一緒に前向きに行動したいと願っています。

以上