MELニュース2023年12月 第69号

人類史では、今から12万年前に始まった地球の温暖化がユーラシア大陸を覆っていた氷河を溶かし、現代人の祖先であるホモサピエンスがアフリカを出て各地への移動が起きたとされています。その12万年来最も暑く、国連事務総長をして「沸騰する地球」と言わしめた2023年が終わろうとしています。
折から、Cop28がUAEのドバイで開催され、先進国と途上国、また産油国と消費国の対立の中、会期を延長しかろうじて「化石燃料時代の終りの始まり」と表現される総括文書が合意されたと報道されています。メディアは画期的との立場ですが、気温、水温の上昇は避けられず、自然を相手にする水産業にとり生き残りへの厳しい道が続くことを覚悟せざるを得ません。

1.国際標準化関連

GSSIは新基準による承認を、9月のMELに続き、10月のASC、11月のBAPを発表しました。12月にはMSCがパブコメに入っています。「水産エコラベル新時代」は着実に歩みを進めています。
一方、トップを切ってGSSIの新基準に承認されたアラスカRFMのスキームオーナーであるCSCは、GSA(Global Seafood alliance)との連携を模索する動きをしており、新しい年はスキームオーナー同士の協働が拡がる予感です。MELも年明けにはCSCとのCoCでの相互承認の具体的な詰めに入る準備をしています。

2.認証発行関連

今月は養殖2件、CoC2件の予定です。2023年末現在の認証件数は漁業 23件、養殖65件、CoC149件 計237件となります。
12月20日に、海生研(公財海洋生物環境研究所中央研究所)様がMEL審査機関としてJAB(公益財団法人日本適合性認定協会)に認定されました。取組まれて以来3年、コロナの期間、MELのGSSI新基準への移行等を克服された努力に敬意を表しますと共に、日水資様と連携した活発な活動に期待をします。
保科理事長はじめ関係者の皆様に心からお祝いを申し上げます。

3.認証取得者からの報告

寒ブリの季節となりました。寒気の到来と共に各地の定置網でまとまった漁が報道されています。ブリに大いに頑張ってもらいたいと願っています。
今月は、高知県の橘浦にある養殖場の近くに加工工場を新設されたサンライズファーム様の島田 康徳専務にお願いし取組みを話して頂きました。

「付加価値商品開発を目指して」

サンライズファーム㈱ 専務取締役 島田 康徳

弊社は2023年3月に高知県宿毛市に建設した、すくも加工場で自社養殖ぶりの加工を開始しました。主力の生鮮フィレーの製造と、当初から計画していた高次加工の商品開発を並行して行っています。

冷凍のぶり加工品は、活け〆したぶりを生から切身加工して、味付け、加熱等の加工をし、手軽に美味しく食べられる商品を作っています。
「ぶり大根煮」は食べやすくカットしたぶりと、国産の大根を一緒に炊き上げています。ぶりの程よい脂と大根の旨味が合う逸品です。冷凍のまま、湯煎調理で食べられます。「ぶりのごまだれ漬け丼用」は、専用のスライサーで薄くスライスしたぶりに、ごま入りの甘めのたれをからめて個食パックにしました。解凍して、熱々ご飯に盛るだけで本格的な、ぶり丼になります。
新作品では「ぶりとアボカドのポキ」を開発しました。ダイスカットしたぶりとアボカドをごま油の風味がよい香味ソースで和えました。女性に好評で、そのまま食べても、ご飯にのせてポキ丼にしても美味しく召し上がれます。解凍して、すぐに食べられるお手軽な商品です。
自社養殖・自社加工の一貫体制を構築し、安心・安全に加えて、MEL認証商品をシリーズ化することで自社従業員の意識向上と、我々が考える企業理念をお客様へお伝えしたいと考えています。
近年は魚種に関らず、魚資源の枯渇が言われており、養殖魚の必要性は年々増していると実感しております。持続可能な養殖業を継続し、安心・安全な商品をお届けすることで社会に貢献していく企業になりたいと考えます。

島田様有難うございました。新工場立ち上げのご苦労は並大抵ではないかと思います。辛抱と日々の努力の積み重ねが明日をつくります。役職員の皆様のご健闘をお祈りします。

4.関係者のコラム

水産庁漁政部企画課で3年間MELのご指導をいただきました浜辺 隆博様が、本年4月に愛媛県愛南町に転勤され「海業」推進を担当されています。浜辺様に生産地から感じるMELについてお話しをいただきました。

「愛媛県最南端の町 愛南町から見る水産エコラベルの未来」

愛南町役場水産課海業(うみぎょう)推進室
室長 浜辺 隆博

愛媛県の最南端、高知県との県境に接する愛南町は、温かな黒潮の恩恵を受けながら、複雑なリアス式の海岸線が良好な静穏水域を形成する日本有数の水産基地です。
四国一の水揚量を誇るカツオに始まり、町内の大小様々な湾内ではマダイやブリ、シマアジ、マサバ、スマなどの魚類養殖、真珠母貝(アコヤガイ)、カキ、ヒオウギ貝などの貝類養殖など、様々な漁業・養殖業が営まれています。
今年の3月には、水産庁が推進する海業(うみぎょう)(※)のモデル地区として、中四国地方で唯一選定された地でもあります。
近年の取組の一例として、町内にある2つの漁協の1つ愛南漁協では、養殖マダイの買取販売による輸出が行われています。水産エコラベル認証のみならず、藻場保全などのブルーカーボンに向けた取組、養殖生簀の廃フロート再資源化への試行など、SDGsを目指した取組が実践されています。サステナブルという名の下に行う様々な環境配慮の取組を、新たな付加価値としてアピールすることで、世界の扉に挑戦しようと取り組んでいます。
MEL認証については、町内のマダイ養殖事業者7社を愛南漁協が束ねる形で、2020年2月に取得しています。2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会への食材提供を目指して、前身の養殖エコラベル(AEL)に取り組んでいたことから、スムーズな移行審査だったと聞いています。この経験を生かして、一部の養殖事業者と地元加工事業者は、北米の主要な小売が調達基準としているBest Aquaculture Practices(BAP)認証も今年の3月に取得しました。この他、ASC認証の取得も検討され、「すぐ取れるね」という話が現場から出るほど、いわば国内養殖水産エコラベル認証の最先端地といっても過言ではないと考えています。

話を現場に移すと、町内のマダイ養殖事業者は、家族経営もありますが、企業的に経営する事業者も比較的多く存在しています。持続可能な取組を可視化するという大義を持つ水産エコラベル認証ですが、目前の従業員を雇う観点は必要不可欠であり、認証取得に対する経営者のモチベーションは、会社の利益につながるかどうかです。その指標として分かり易いのは第1に取引の拡大です。
確かに近年の環境意識への高まりを見据えて、先行投資として取り組む事業者もいますが、関心を持ってくれる事業者から必ずと言えるくらい問われるのは、「どの認証を取得すれば、どこと取引できる可能性があるか」という販路の幅です。国内でMEL認証のデファクト化も進んだ今、養殖水産物のみならず、各認証のスキームオーナーも認証を商品と捉え、プロダクトアウトから、マーケットインに切り替える発想も必要なのではないでしょうか。現場サイドへ選択肢を提供することができれば、認証取得の促進にもつながると考えられます。
この点では、GSSIベンチマークツールVer2への対応でMEL認証にも導入された、モイストペレットの利用厳格化、特に育成期の継続使用の禁止に対して、現場は重く受け止めています。海という共通の地球環境の利用者であることは間違いありませんが、マダイという商品を生産する経営者でもあり、これまで続けてきた生産方法によって達成されてきた品質に対する顧客が存在します。これを変更するということは並大抵の経営判断ではありません。これまでもMEL認証取得のために新しく始めた取組はごくわずかであり、特に魚の生産方法については、今までのやり方が環境にやさしい取組であると評価されることが、一種の誇りに繋がっていました。生産者へのリスペクトが一層大切だと感じます。
また、愛南町内に立地する愛媛大学南予水産研究センターでは、町内の海域10地点について、1週間に1度の水質検査(冬季は2週間に1度)を実施している上、町役場には魚類防疫士が2名体制で月曜日から土曜日(冬季は金曜日)まで魚病診断業務を行い、即日でカルテを出す体制を整えています。このようなモニタリングとセットで実施している場合には、規定の背景にある海域環境悪化への懸念も払拭できるのではないでしょうか。国内外の有識者の皆さんには是非、現場を見に来ていただきたいと思います。
私自身は、水産庁からの出向で4月に着任したばかりの新米愛南町職員ですが、水産庁時代に水産エコラベルを担当させていただきました。水産基本計画に初めて水産エコラベルという文言が入った2017年当初の理念としては、日本発の水産エコラベル認証スキームが国際標準に仲間入りすることで、「世界にも誇れる日本式の生産・管理手法を世界に認めさせる」という野心的な意味合いだったと記憶しています。私自身も、日本の漁業・養殖業を持続させていくという大きな目標に向けて、お手伝いをさせていただきました。愛南町はその舞台として申し分ない地だと思います。水産エコラベルが切り拓く未来、持続可能な水産資源利用の実現に向けて、是非とも皆さんと二人三脚で取り組んでいければと思います。

(※)海業(うみぎょう)…2022年3月に閣議決定された水産基本計画や漁港漁場整備長期計画に導入された用語。海や漁村の価値や魅力を活用する取組や事業のこと。自民党の水産政策推進議員協議会(座長:小泉進次郎衆議院議員)において「海の地方創生」と位置付けられ、関係省庁の協力と連携の下、強力に推進していくこととされている。愛南町の取組を発信するウェブサイトやSNSも開設中なので、フォローよろしくお願いします!

浜辺様有り難うございました。ご指導いただいた3年間の積み重ねが今日のMELであり、また厳しいご指摘に深謝申し上げます。「生産者へのリスペクトが大切」という言葉が胸に響きました。皆様の期待を裏切らない様頑張りますので、今後ともどうかよろしくお願いします。

5.MEL配合飼料、魚粉・魚油認証に関する規格委員会を開催しました

12月19日に第2回MEL配合飼料、魚粉・魚油規格委員会を対面およびWEB併用で開催しました。前半を配合飼料、後半を魚粉・魚油とし、規格の4原則を構成する各評価指標の説明と、海産魚由来原料の持続可能性およびトレーサビリティを担保するためにマスバランスの考え方をどの様に規格に取り入れるかに重点を置き議論しました。委員およびオブザーバーの皆様から活発な意見をいただき、課題の所在が明確になりました。

  1. 養殖事業者が製品(養殖魚)に表示できることがこの認証制度に意義であること。
  2. マスバランスの考え方をMEL規格に取り入れるにあたり、先行している業界例えばパーム油等につき具体的に課題を調査する。
  3. 「『IUUに該当しない、絶滅危惧種を含まないこと』を保証できないもの」に区分される原料の実態を精査する。
  4. 漁獲証明に関する書類は必要な情報が明記されている限り様式は問わない。
  5. 調整魚粉は無視できない存在であることから、規格にどのように反映させるか検討する。

年明けから、委員の皆様のお力をお借りして草案を更に進化させます。委員の皆様よろしくお願いします。

「混沌の2023年」も残りわずか。戦乱でクリスマスも祝えない年末になってしまった国があるのは痛ましい限りです。水産業界にとっても決して良い年ではありませんでしたが、厳しい中で明日に繋がる様々な挑戦がされた年であったと思います。アメリカの大谷翔平フィーバーの中、黒人初の大リーグプレーヤーのジャッキー・ロビンソンの言葉「不可能の反対語は可能ではない。それは挑戦だ」が取り上げられたとの報道がありました。(奇しくもジャッキー・ロビンソンを大リーグにデビューさせたのは、当時ニューヨークにあったドジャースでした)。私たちも挑戦する心を途切らすことなく新しい年に向いたいと願っています。
どうかお元気で良い年をお迎えください。

以上