MELニュース2023年5月 第62号

2023年5月 第62号

(一社)マリン・エコラベル・ジャパン協議会
事 務 局

 5 月にしては全国的に夏日が続くという地球温暖化を実感する毎日ですが、体調管理に充分配慮の上活躍されることを願っています。
ご承知の様に 5 月 4 日に WHO のテドロス事務局長がコロナ緊急事態の終了を宣言しました。日本でも 5 月 8 日からコロナは感染法上の分類でこれまでの2 類から 5 類に引き下げられました。   これでコロナ禍が終息したわけではありませんが、2020 年 1 月から 3 年 3 ヶ月で新ステージに入り、他の感染症と平行して流行を制御することになります。観光シーズンたけなわの東京は、一時閑古鳥が鳴いていた築地場外市場や浅草がインバウンド観光客で賑わっています。
前にも触れたかと思いますが、1991 年に施行された感染症法がその前文で指摘する「医学医療の進歩や衛生水準の著しい向上により、多くの感染症が克服されてきたが、新たな感染症の出現や既知の感染症の再興により、また、国際交流の進展等に伴い、感染症は、新たな形で、今なお人類に脅威を与えている」を噛み締めています。コロナ対策は自己判断に任されることになりますが、ゆめ油断のない対応が肝要かと愚考しています。

1.国際標準化関連

4月26日にSeafood Expo Global 2023の会場内でGSSIスキームオーナー会議が開催され、MELからは冠野事務局長が参加しました。
スキーム代表から事前に議案を提議、理事を含めた参加者間で議論する形式で進められました。CSCからはスキームオーナー・アドバイザリー・グループの位置づけ強化、ベンチマーク審査の改善などが提案されました。MELからは、認証ロゴマークに「GSSI承認」タグラインの近接使用を提案しました。GSSIはロゴ、タグライン共に消費者に直接晒すことを不可としており、BtoBの範囲でどこまで管理できるかなどを参加者間で議論しました。今後はGSSIサイドで内容を詰めますが、MELの海外での認知向上に寄与すると期待しています。
Lisa Goché新事務局長と個別面談しました。日本の水産行政、業界団体、主要企業への訪問を促し、また養殖拡大を支える飼料原料の安定確保、残渣の有効利用など、国内の養魚飼料の事情を説明しました。Lisa氏も日本の重要性を認識しており、早期に訪日が実現するようフォローしていきます。
ベンチマーク審査の進捗ですが、現在ベンチマーク委員会のレビューの最終段階で、ガバナンスについて何点か追加質問を受けており、その対応を行っています。一方、GSSI事務局スタッフの長期休養などで次のステップへの移行が若干遅れる見通しです。

2.認証発効関連

今月の認証発効は、CoCが4件でした。全体では、漁業認証22件、養殖認証61件、CoC認証138件となり、合計221件になりました。

3.認証取得者からのご報告

今月は、三陸沿岸の秋サケ等主力魚種の漁獲不振への対応としてギンサケの養殖に取り組んでおられる久慈市漁協の専務理事村上順一様にご報告をいただきました。

「ギンサケ養殖への取り組み」

久慈市漁業協同組合 専務理事
村上 順一

 当組合は、岩手県北部久慈市に位置し、主に販売・購買・製氷冷凍及び加工・共済その他の事業を行っております。2011年3月11日東日本大震災津波被害により組合施設は軒並み壊滅的な被害を受けました。

その後早期復旧を進め2012年以降事業展開を行って参りましたが、近年販売事業の基であり水揚主力魚種の秋鮭・スルメイカ等の水揚げが激減し、組合経営に支障が出ること等が想定されました。そこで、2019年4月、組合が事業主体となり水産養殖事業のトータルサポート事業を行っている㈱ニチモウマリカルチャーと協働し、ギンザケ試験養殖を開始しました。3年間の試験養殖を経て2022年4月から当組合事業として本格的な養殖事業が始まりました。

事業展開に伴い、久慈湾内の養殖施設の敷設から、稚魚搬入、給餌、水揚げまでの環境に配慮した養殖活動の進め方、水揚げ後の迅速な処理対応、また水揚げ後の加工について等、ニチモウグループと協議して進めて参りました。特に加工については、水揚げ市場に併設された組合加工場の活用を図るべきとの考え方から、組合加工場が加工販売を行う㈱ニチモウより加工作業を受託することとなりました。

MEL認証取得については、事業委託先の㈱ニチモウが2021年5月MEL認証を取得していることもあり、今後の養殖事業には当組合も「
MEL認証取得は我々も含めた消費者が持続可能な養殖事業とするために取り組んでいることを伝えられる方法」、そのためにもMEL認証が必要との考え方から、2022年6月MEL養殖認証・流通加工段階認証を取得させていただきました。

今後、MEL認証については国内だけではなく広く海外でも認められる認証に発展することを信じ組合として日々取り組んでおります。最後に、今後ともご指導、ご鞭撻のほど宜しくお願い申し上げます。

村上専務有難うございました。震災直後に訪問した久慈の惨憺たる姿を思い浮かべながら、胸の詰まる思いで読ませていただきました。
また、MEL認証を取得されているニチモウマリカルチャー様との協働で取り組みが前に進んでいることをうれしく承りました。今後のご発展をお祈り申し上げます。

4.関係者のコラム

「水産エコラベル新時代」への対応に当たり、水産エコラベルの原点を再確認すべく元FAOの水産局長で現在農林水産省国際顧問水産担当を務めておられる野村一郎様に当時の話をお願いしました。図らずも、先月号の重様からいただいたコラムと合わせ、水産エコラベルの嚆矢を国内外から俯瞰することになりました。

「FAOと水産エコーラベル」

野村一郎
農林水産省国際顧問
(元FAO水産局長)

 私は、2000年4月にローマの国連食糧農業機関(FAO)水産局(後に水産養殖局に改名)に水産庁からの出向という形で赴任し、2010年7月まで10年間FAOに在籍した。
1990年代から私が在籍した2000年代は、公海漁業の管理のための規範の策定に向けて、FAO加盟国と国際世論のFAO水産局の活動に対する信頼と期待が高まっていた。FAO水産局にとっての最優先事項としては、IUU(違法・無報告・無規制)漁業対策やワシントン条約と漁業の関係などがあげられるが、2000年代前半には、水産物のエコーラベル問題も重要課題であった。

水産物のエコーラベルといえば、1997年から活動を開始していたMSC(Marine Stewardship Council: 海洋管理協議会)を筆頭に、その他のエコーラベルも多く出現してきていた時期であり、それぞれのエコーラベルの基準がばらばらで混乱を招く、恣意的運用により水産物貿易の不当な規制に繋がるなどの懸念が強まっていた。FAOとして先ずは海面漁業についての水産物エコーラベルの要件や基準を定めるガイドライン(Guidelines for the Ecolabelling of Fish and Fisheries Products from Marine Capture Fisheries)の策定に着手した。しかしながら、当時、東部熱帯太平洋でのマグロ巻き網漁業によるイルカの混獲問題に起因する米国のマグロ製品の輸入禁止と、イルカを殺傷しない漁法による製品しか米国市場での流通を認めないとするドルフィン・フリー・ラベルに苦しめられていたメキシコをはじめとするラ米諸国やインドなどの一部の途上国は、エコーラベルそのものが途上国からの水産物輸出の障壁となると考えていた。これらの国は、FAOがエコーラベルのガイドラインの策定作業に入ることは、エコーラベルそのものにお墨付きを与えるものであるとしてその作業自体に反対したため、策定作業は数年間全く進展しなかった。そのうち、適正な要件・基準で認証されたエコーラベル制度は、消費者の購入の選択を与えることにより関連資源の保存に寄与し、途上国からの水産物に輸出増大にもつながるとの認識が広まった。その結果、当ガイドラインは2004年と2005年の政府間の技術会合を経て、2005年の第26回FAO水産委員会(COFI)で採択された。(内水面漁業のエコーラベルのガイドラインは2011年の第29回COFIで採択。)

私は、FAO 退職後2010年から2016年までMSCの評議員をしていたので、MSCについての雑感を述べさせていただきたい。MSCは食品会社大手のユニリバー社と環境団体のWWFが共同で設立したNGO(非政府機関)である。この設立者のプロフィールと、当時の無規制な公海漁業への風当たりが強かったこともあり、MSCは環境寄りの考えに偏向して漁業を批判する団体であると認識されていたことも否定できないが、これは誤解である。MSC は設立後まもなくユニリバー社とWWF からは独立し、科学的根拠に基づく基準により、持続的な漁業で獲られた水産物の購入という選択を消費者に提供するという基本的な立場を堅持してきた。(とはいえ、私がMSCの評議員になった際には、業界紙の記者の方々から「野村さんも環境団体のメンバーになったんだね」と揶揄された。)

皆さんもご承知のとおり、MSCの漁業認証基準は(i)資源の持続可能性(当該資源が枯渇状況になく、その漁業が過剰漁獲となっていない)、(ii)生態系への影響(漁場となる海の生態系やその多様性、生産力、機能を維持できる形で漁業が行われている。混獲防止や生息域保護も考慮),(iii)管理システム(国際規制や国内規制に基づく適正な漁業管理が行われている)という3原則を、各原則に属する数十に及ぶ基準(Performance Indicator)について科学的・客観的に採点して判定するというものである。これらの原則・基準に合致すれば、米国の急進的な環境団体からの反発に臆することなく東部熱帯太平洋のイルカに付随するマグロ巻き網漁業も認証したし、逆に、資源管理の実績と成功を吹聴していた北東大西洋のサバ漁業について漁獲上限(TAC)と国別割当量に合意できなかった際にはその認証を取り消したりしたのである。このような科学的・客観的な判定基準の固持こそがMSCへの信頼を確固たるものにする所以なのではないだろうか。

FAOのエコーラベルガイドラインの策定作業とMSCとの関連にも触れておきたい。この策定作業は先ずFAOが選任する専門家による素案作りから始まる。当時水産物のエコーラベルの実施団体としてその名がよく知られていたMSCの関係者をFAOが専門家として招かないというオプションはなかった。専門家会議の過程で、MSCは自らが望ましいと考える基準をガイドラインの素案に盛り込もうとしたし、逆に、ガイドラインの素案に準じるようにMSCの基準を改定することも可能であったと思われる。また、私の在任中にも、FAOのガイドライン策定作業の進捗状況や見通しについて意見交換を行うために、一度ならずMSC関係者の訪問を受けた。FAO側にとってもMSC関係者の実務に根差した専門知識を聴取することや、将来の水産物のエコーラベルのマーケットでの位置づけを彼らと議論するのは有益であった。このような次第で、FAOで採択されたガイドラインはMSCにとっては大いに歓迎すべき内容であった筈である。

私がMSCの評議員を務めた6年間で評決事項となったのは1件のみであった。それは2013年の評議会で侃々諤々の議論となった、いわゆる「ふかひれ切り(shark finning)」の禁止を漁業認証の要件とするかどうかである。結果は、3対1程度の票差で採択された。今や本件は幾多のマグロ関係の地域漁業管理委員会で禁止の対象となっているのだが。また、現在のMSC漁業認証基準に含まれている船員の強制労働などの人権問題については、当時はMSCはその基準策定に必要な専門的知見を有しないとして検討の対象から除外していた。

では、MSCには問題がないのだろうか?答えはNoである。先ず、漁業認証については1件当たり1万ドル以上、場合によっては10万ドル以上と高額となり、途上国の漁業や、先進国であっても小規模な漁業にとっては手が届かないのではないか。また、その基準作りが欧米のどちらかといえば単一魚種を対象とする漁業に焦点を当てているため、アジアやアフリカの小規模で多魚種を対象とする漁業にはうまく合致しづらいという問題がある。これらの批判に対してMSCは対応策を検討・実施しつつあると仄聞してはいるが。

MEL/JAPANについては、私は、その設立や活動について全く関与しておらず、有益なコメントを申し上げる資格も知見もない。日本漁業の特性などが考慮されていない欧米起源のエコーラベル制度に日本漁業が巻き込まれることは問題であり、日本漁業の特性を考慮し、かつ、国際的な吟味にも耐えうる独自の水産物エコーラベルが必要であるとの責任ある漁業国としての認識があったと理解している。MEL/JAPANの設立の経緯やその後の発展については、4月のMELニュースの中で重義行元大日本水産会専務が余すところなく解説されている。また、MEL/JAPANの基準策定にあたっては、MSCに対して聞こえていた批判も考慮して、多魚種を漁獲する日本の小規模漁業の特性に対応できる内容にされたと聞いている。当然で妥当な方針だと思われる。さらに、多大な作業と困難を克服し、2019年にGSSI(世界水産物持続性イニシャティブ)に承認され、国際標準スキームのステータスを獲得したことは、世界に認知される大きな一歩を踏み出したと言えよう。

私はMEL/JAPANとMSCを比較することは特段の意味があるとは思っていないが、敢えて数値を挙げてみよう。日本国内のMSC漁業認証とCoC(Chain of Custody:流通加工段階)認証は、それぞれ16件と352件(MSCジャパンニュースレター5月号)、MEL/JAPANは、22件と135件(電話にて聴取)。漁業認証件数についてはMEL/JAPANはMSCを上回っており、日本の漁業関係者にその有益性が理解されつつあるようである。CoC認証については、欧米市場へのアクセスのため日本の商社や水産会社は、MEL/JAPANの活動が本格化する以前からMSCのCoC認証を取得しており、国際市場においてMEL/JAPANの認知度をMSCの認知度に近づけるのは短期的には難しいのかもしれない。もっとも、2020年の東京オリンピックに先立ち、国際的に認証されたエコーラベルの要件を満たす水産物のみが調達の対象となるかもしれないという懸念が生じたが、MEL/JAPANがGSSIの承認を取得したことにより、今後はこの点については杞憂となるだろう。

MEL/JAPANがMSCをライバル扱いして、追いつけ追い越せとの競争感覚に陥ることは有益であるとは思われない。MEL/JAPANはその設立の趣旨に徹して、先ずは日本漁業と日本市場の関係者の更なる認知の強化に努めるのがよいのではないか。買い負けが報道されている日本ではあるが、それでも世界に冠たる水産物市場が日本に存在することに変わりはない。その中での認知度の高まりとそれに対する信頼性こそ国際市場でのMEL/JAPANの立ち位置に良い影響を与えるであろう。日本水産(株)時代から漁業のSustainabilityへの造詣が深かった垣添さんを会長に迎える幸運に恵まれたマリン・エコラベル・ジャパンの益々のご発展を陰ながら応援したい。

野村様有難うございました。ご多用の中、野村様しか語れない臨場感あふれるお話をいただき深謝申し上げます。MELをお預かりする編集子として、井戸を掘っていただいた野村様はじめ関わられた先人のご苦労に身の引き締まる思いです。どうか今後ともご指導、ご支援をお願い申し上げます。

5.Seafood Expo Global 2023に関する報告

今年でバルセロナでの2回目となった展示会は、4月25‐27日の3日間コンベンションセンターで開催されました。昨年と比較して会場面積4万9千㎡(+24%)、出展社数2千百社(+34%)、来場者数3万3千人(+24%)と大盛況でした。特に昨年出展しなかった中国勢のブースが目立ちました。
日本も昨年より参加が増え、JETROの日本パビリオンにMEL認証事業者の南予ビージョイ様はじめ15社、日本養殖魚類輸出推進協会はボストンに続いて出展しブリとマダイの試食を提供し賑わっていました。日系企業では、マルハニチロ、ニッスイ、極洋の現地会社、セルマック(三菱商事)が立地の良いホール2に大きなブースを構え気を吐いていました。長年内向きであった日本の水産業界がその存在感を世界に向け示し出したと受け止めました。大いに期待をするとともに、MELもお役に立てる様頑張りたいと願っています。

6.CSCとのCoC認証相互承認に関する会議

4月27日にバルセロナでRFMのスキームオーナーであるCSCとCoC認証の相互認証に関する会議を行いました。MELのCoC規格、関連規程、審査制度について説明し、RFMとの相違点の確認、対象範囲の整理、認証機関への対応などについて意見交換しました。両スキームともISOに則しているのでほぼ類似していますが、幾つか相違点が見られ、相互認識・承認する仕組みを持つこととしました。今後は規格、諸規程などを一層精査・整理し、認証機関を交えた説明会を開催し、年内に事務関係の準備は完了したいと考えています。

企業、団体の総会が連日続いています。水産業界は不漁とコロナ禍による需要不振の二重苦にも拘わらず、皆様それぞれに納得の決算を発表されていることは同慶の至りです。魚価上昇の恩恵だけでなく、皆様の日ごろからのキメ細かい改善、改革の成果と敬意を表します。
すでに新年度も2か月たちますが、今年は決してやさしくないとの見方が大勢の様です。日本の水産業の元気を皆様とご一緒に守りたいと願っています。

以上