MELニュース2023年3月 第60号

2023年3月 第60号

(一社)マリン・エコラベル・ジャパン協議会
事 務 局

春は誰もが多忙です。個人として入学試験、卒業式、入学・入社式に続くそれぞれの人生に繋がる道が待っており、事業者にとっては、新年度への事業計画・予算作成、決算、人事異動に加え特に今年は予期しない変化に対する多くの課題を抱えています。
水産関係者にとり、春漁が当事者は勿論、社会の期待を担って始まります。
北海道のニシンは豊漁が伝えられていますが、イカナゴの新仔漁やホタルイカ漁は厳しい報道がされています。資源問題もさることながら、海水温の上昇、海の酸性化等々過去の人類の活動の影響が重くのしかかります。 MEL協議会も、多様化する社会への対応に慌ただしい年度末です。

1.国際標準化関連

GSSIは2013年に発足以来10周年の節目迎えました。3月11日にボストンで開催されたSeafood Expoに合わせて10周年のレセプションが盛会裡に行われました。辞任する事務局長Herman Wisse氏の後任は現在理事を務めているLisa Goché氏が暫定的に引き受けることが公表されました。Gochê氏はアラスカ大学出身でシアトル在住。グローベスト社の副社長やGAA(GlobalAquaculture Alliance)副会長等を経て、2023年2月からGSSI理事。食品安全、品質保証に詳しく、ISO9100、22000等の審査員資格を持つ。レセプション中Goché氏と面談の機会がありましたが、GSSIの拡大に前向きと受け止めました。Goché氏の就任で執行のトップがヨーロッパからアメリカに移りますが、影響は現時点未知数です。

GSSIの新基準への申請の審査は順調に進んでいます。先発のCSC(アラスカRFM)は間もなく承認される見通しとのことであり、他のスキームも順次続くと思われます。

2.認証関連

今月の認証発効はCoC2件の予定です。
2年越しの課題でありました認証機関複数化は、新たにMELの認証機関となられた海生研(公益財団法人 海洋生物環境研究所)様が第1号の審査案件である愛知県のマル伊商店様のCoC認証を発効されました。認証機関として認定されるまでの厳しい過程を我慢強く対応されている海生研様の取り組みに敬意を表しますとともに、今後MEL認証制度の重要な機能として活動いただくことをスキームオーナーとして嬉しく思います。

3.アラスカRFMのスキームオーナーであるCSCとの間で進めているCoC認証の相互承認について記者発表を行いました

2月28日に東京でCSCとMEL協議会がCoC認証に関し相互承認することを報道関係に公表しました。既に皆様にはMELニュース等で報告済ですが、CSCのマーク・フィーナ理事長、アレン・キンボール理事(ASMI理事長)が来日された機会に実現したものです。水産庁からも加工流通課の四ヶ所課長補佐にご臨席いただきました。

CSCはエコラベル認証において重複コストを削減するため、GSSIが承認するスキームの協働を進めており、既にアイスランドRFMとの間でCoC認証の統合を行っています。MELは海外における知名度を高め、かつ認証水産物の輸出において海外スキームとのCoC認証の相互承認は有効であるとの認識から、アラスカRFMのスキームオーナーであるCSCと協議を重ねて来ました。CSCはBAPが主宰するGSA(Global Seafood Alliance)とも提携を合意しており、これを機会に世界でスキームオーナー間の協働が進むことが期待されます。MELもコアメンバーに仲間入りします。

4.MEL認証取得者からのご報告

今月は岩手県田老町漁協様の「真崎ワカメ」にかける思いを総務部長兼指導増殖課長の畠山 昌彦様に披露いただきました。

「真崎ワカメ」とともに

田老町漁協 総務部長 畠山 昌彦

種苗生産から販売まで

岩手県の養殖ワカメは漁業者がワカメを養殖してボイル・塩蔵加工・芯抜き作業を行ったものを出荷して入札で価格が付けられて流通していくのが一般的ですが、田老町漁協が販売する「真崎わかめ」の場合は、組合員が田老地先の磯場に自生している天然ワカメから種をとって自ら種苗生産を行い、田老の海で養殖したものを田老町漁協が自営する加工場が買い取ってボイル・塩蔵加工を行い、パック詰めを行って販売まで行うという珍しいスタイルをとっています。

なぜ面倒なことをするのか

ワカメも陸の野菜と同じように早生・中生・晩生の種苗がありますので、いくつかの種苗を組み合わせて収穫すれば安定的な収穫が見込まれるのですが、田老町漁協の場合はあえて地場産の種苗しか使いません。それは田老の天然ワカメが一番美味いと信じているからです。
一般的には知られていませんが、ワカメが自生しているのは日本近海と朝鮮半島の一部のみで、育つ環境によって形状が大きく違います。
北海道の東海岸を流れ下った親潮が本州で最初にぶつかる岩手県北部の冬の海水温は北海道の日本海側の海域よりも低く、親潮が接岸した年は5℃を下回ります。
そのため、この海域に生息するワカメは、ワカメの中でも最も寒流に適応したタイプで、寒さに耐えるために葉が厚く、荒波に耐えるために葉の切れ込みが深くなり、親潮の豊富な栄養分を吸収して全長3mを超えるまでに成長します。葉が厚いのでコンブと勘違いされることもあるほどです。

純粋な田老のワカメを提供するために

田老のワカメ養殖漁業者は全員、自らワカメ種苗を生産します。自然の海で生産するものですから、種苗の善し悪しは出ますが、養殖漁業者同士で融通し合って賄い、他地域から導入することはありません。漁業者のワカメ種付け作業には全ての作業に漁協職員が立ち会い遊走子の動きを確認しますし、水温や栄養塩や生育状況を定期的に計測して漁業者に情報提供を行います。
漁業者が行う種苗の巻き込み作業、間引き作業の工程で機械化されているのは幹縄の移動をするときに使う工程ぐらいで、間引き作業は毎年1月~2月の厳寒期、そのほとんどを手作業で行います。収穫されたワカメは田老漁港にあるボイル加工場で、収穫されたその日のうちに全てボイルして塩蔵加工を行い、脱水枠に入れて重しを乗せて2日ほどかけてゆっくり脱水作業を行います。
プレス機で脱水した方が早く作業が終わるので作業効率は上がりますが、葉質に悪影響を及ぼさないために、時間と手間をかけての脱水方法をずっと続けています。

こだわりの証として

上記は作業工程のほんの一部です。「真崎わかめ」は親選びから製品に至るまで、ありとあらゆるこだわりを持って生産したものですから、製品には絶対の自信があります。
でも、その製造の過程は、店頭に並ぶパッケージだけでは消費者の方々には届きません。こだわりを持った商品を作る私たちの思いと様々な商品を前に、安全でおいしいものを求める消費者の皆様を繋ぐもの。それが「MEL」のマークだと思います。愚直なまでにこだわり抜いた「真崎わかめ」が生まれるまでのストーリー。マリンエコラベルがそのアイコンとして消費者に訴えかけてくれます。

復興工場から

2011年3月、ワカメの加工場は東日本大震災の津波で全て流失してしまいました。でも、2015年2月に新たな加工場を防潮堤の内部に再建し、徹底した衛生管理の下で選別・パック詰め作業を行い、全国に向けて出荷しています。

 

畠山様有り難うございました。ぜひ「真崎ワカメ」にかける皆様の拘りのストーリーを守り育てて下さい。MELも積極的に社会への発信のお手伝いをさせていただきます。

 

 

5.関係者のコラム

養魚飼料の価格高騰が養殖業界に深刻な影響を及ぼしています。フィッシュミール・魚油の原料のトレーサビリティについて先端的研究を行っておられ,MEL協議会とも交流のある愛媛大学の井戸 篤史先生に研究の進展、課題等につき開示いただきました。学術論文スタイルですが、示唆に富む内容ですので是非皆様と共有させていただき今後の活用につなげたいと思います。

「魚油と魚粉はどこから来るのか?」
日本の大都市に眠る水産加工残渣と、そのトレーサビリティ

愛媛大学大学院農学研究科 井戸 篤史

■ 日本の魚油・魚粉製造の現状と、都市水産残渣の潜在的な可能性

養殖生産量が世界的に拡大する中で、養殖用の飼料原料である魚油・魚粉に対するニーズが高まっています。天然魚の漁獲量は頭打ち、植物性原料では肉食性の養殖魚の消化・吸収が十分とは言えず、昆虫や藻類等の次世代原料はまだ開発途上である中、現状最もサステナブルな飼料原料として、食用魚の非可食部(加工残渣)活用の重要性が改めて見直されています。

欧米では、シーフードサプライチェーンの上流(産地)において加工残渣が多く発生しますが、日本等のアジア諸国では、欧米とは逆に、サプライチェーンの下流において加工度が高まることから、残渣は人口が集積する消費地において多く発生します。これは、都市水産残渣(Urban Fisheries Biomass)と呼ばれる巨大な資源であり、2000年代前半の調査では、都市水産残渣は日本国内で年間150万tが発生し、国内で発生する残渣の約7割を占めると報告されています(樽井ら、2005年)。
日本国内で発生する都市水産残渣の多くは、回収され、魚油・魚粉の原料として有効活用されています。首都圏の工場では、1万以上の加工業者や販売店・飲食店から新鮮な加工残渣を毎日400―500トン回収し、魚油を絞りつつ、タンパク質に富んだ魚粉を製造します。絞られた魚油は、別の工場に送られ、脱酸・脱色工程を経て、精製魚油として生まれ変わります。その品質は、驚くべきことに、天然魚由来の魚油とほとんど変わりません(表1)。日本で、食料自給率が極めて低いことが課題となっていますが、魚油の国内自給率が約80%に上るのは特筆すべきことであり、そのうちの0―80%は、加工残渣から製造されています(水産油脂統計年鑑)。他国との比較では、日本国内で製造される魚油・魚粉の原料のうち、加工残渣が占める割合は著しく高く(表2)、日本のリサイクルシステムは、世界に類を見ないものであることが分かります。産地で発生する加工残渣だけでなく、都市水産残渣をも最大限有効に利用するシステムが、日本の魚油・魚粉供給を支えているのです。

■ 都市水産残渣に含まれる魚を調べる方法

では、都市水産残渣から製造された魚油・魚粉を手放しで絶賛できるかと言われると、決してそうではありません。MEL養殖認証規格やASC Standard等の国際的なエコラベル認証制度では、飼料に使用される原料の厳格なトレーサビリティが要求されます。天然の餌魚だけでなく、加工残渣の元となる魚に関しても、絶滅危惧種や違法・無報告・無規制(Illegal, Unreported,Unregulated; IUU)漁業で採捕された魚を利用することは認められていません。都市水産残渣は、流通上のありとあらゆる魚が混入する可能性が排除できず、残渣回収時のトレーサビリティを取りにくいという弱点があります。
そこで、我々は、環境DNAの解析で用いられるDNAメタバーコディングという手法を応用し、都市水産残渣由来の魚粉からDNAを抽出し、そのDNAに含まれる魚種の定量化を試みました。流通される魚種は季節性が生じるため、
月に1回以上の通年サンプリングを行ったところ、ロット当たり81―122種の魚種が検出され、ブリ、カツオ、マダイ、太平洋クロマグロ、マアジの順に多く検出されました。養殖生産量の多いブリは通年安定して検出され(9.3―16.2%)、カツオは3月下旬から10月に多く(7.2―25.6%)、マダイは年末年始に最大値となるなど(11.4―19.0%)、都市水産残渣の構成魚種は、まるで日本の魚食の写し鏡のようです(図1)。その一方で、国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストに絶滅危惧種の「危機(EN)」又は「深刻な危機(CR)」として記載されている魚種は、ニホンウナギとミナミマグロが全てのロットから検出されました。特に、ニホンウナギについては、IUU漁業のリスクが極めて高いことが別の調査からも指摘されています(Kaifuら、2019年)。したがって、現時点では、都市水産残渣から製造された魚油・魚粉は、絶滅危惧種やIUU漁業で漁獲された魚が含まれる可能性が高いと判断せざるを得ません。

■都市水産残渣をもっと有効に活用するためにできること

水産養殖産業が、貴重な海洋生物の絶滅や、IUU漁業に加担することがあってはなりません。しかしながら、都市水産残渣由来の魚油・魚粉は、限られた生物資源を有効活用する役割を持ち、「食のリサイクル」の点において、その重要性が揺らぐものではありません。先に述べたように、都市水産残渣は、日本の魚食の写し鏡であることから、都市水産残渣における絶滅リスク・IUU漁業リスクは、魚油・魚粉製造業者や養殖生産者だけの問題ではなく、シーフードサプライチェーン全体の問題として捉える必要があります。そもそも、絶滅危惧種やIUU漁業由来の魚がサプライチェーンに乗ることがないよう、日本がリーダーシップを取って国際的な漁獲管理を推進していくことや、IUU漁業撲滅に向けて漁獲証明制度を広げていくことが理想であり、それに向けた政府や業界の取り組みが求められるところです。
我々が示したように、DNAメタバーコディングを用いれば、あらゆる魚粉や、その魚粉と同時に製造された魚油の、少なくとも生物種のトレーサビリティを事後的に把握することができます。例えば、魚種毎に「絶滅危惧リスク」や「IUU漁業リスク」を数値で設定すれば、魚粉・魚油のリスクの定量的な評価が可能になります。いきなりのサプライチェーンの変革が難しい場合には、段階的に目標を設定し、その達成度を測るツールとして活用できるかもしれません。
いずれにせよ、DNAメタバーコディングに代表される新たな手法によるトレーサビリティの強化が、日本の養殖生産を支える魚油・魚粉が、どこから来ているかを知り、そして、その持続可能性への関心が高まる機会となることを期待します。

■ もっと詳しく知っていただくための参考文献

Ido, A. & Kaneta, M. (2020) Fish Oil and Fish Meal Production from Urban Fisheries Biomass in Japan. Sustainability, 12(8), 3345. https://doi.org/10.3390/su12083345
Ido, A. & Miura, T. (2022) Species Identification in Fish Meal from Urban Fisheries Biomass with DNA Metabarcoding Analysis. Aquaculture, Fish and Fisheries, 2, 562– 571. https://doi.org/10.1002/aff2.87
本研究は、世界自然保護基金(WWF)ジャパン、及び、日本ブリ類養殖イニシアティブ(JSI)の支援を受けて実施されました。

井戸先生有り難うございました。簡単なこととは思いませんが、加工残渣、都市残渣を社会から信頼される資源とする様、MEL協議会も関係の皆様の力をお借りしながらながら努力して参ります。

6.Seafood Expo North America(ボストン)に参加しました

MELとしては、大日本水産会が主導する「持続的利用体制確立事業」の下海外に向け日本発の水産エコラベルを紹介する初めてのワークショップを開催した2019年以来4年ぶりの参加となりました。
今年は、常連のJETROの日本パビリオンに加え、日本養殖魚輸出推進協会および日本ほたて貝輸出振興協会がそれぞれブースを出し、熱心に日本産のブリ、カンパチ、マダイ、ホタテ貝を売り込みました。MELは「養殖魚輸出振興セミナー」にも大日本水産会とともに参加、MEL認証および認証魚の紹介をさせていただきました。圧倒的にサケが幅をきかせる会場ではありましたが、寿司人気が盛り上がるアメリカだけに日本のブースの試食は大人気で、商談もそれなりの手応えがあった様に受け止めました。

2030年の水産物輸出目標1兆2000億円を達成するためには、覚悟を決めた切れ目のない取組みが求められます。MELも微力ながら一角を担いたいと願っています。

7.ちょっと良い話がありました

―NHK富山放送局がMEL認証取得への地 元の取組みを放送―

3月15日放送の「海の資源を守る!水産エコラベル」で、消費者にとって「水産エコラベル」がどう資源を守ることとつながるか?その意味の解説とMEL認証取得を申請中の新湊漁協様のシロエビ漁の取組みが紹介されました。 下記 URL からご覧になれます。是非覗いてみて下さい。

https://www.nhk.or.jp/toyama/toyama_kokokara/202212.html#0315

8.第2期MELアンバサダーの修了式を行いました

3月24日にMELアンバサダー5名(オンライン参加1名を含む)にお集まりいただき、1年間の活動の総括の会を開催しました。
本年度の最も素晴らしい投稿を顕彰する「MELアンバサダーMVP」は榎本光宏様に決定しました。榎本様おめでとうございます。因みに東町漁協様の鰤王に関する投稿で、視聴数は17万6千回でした。
これでMELアンバサダー制度は2年を修了しますが、SNSを通したアンバサダーさんの生活感とセンスが溢れる認証商品の調理例やマーケットウオッチ等の発信力に大いに元気をいただきましたことに深謝申し上げます。今後もMELのサポーターとしてご支援を続けていただくことをお願い申上げます。

なお、第3期のアンバサダーは5月連休明けから募集を開始します。

地球規模の自然、政経、社会の激動の中でも、「水産エコラベル新時代」を実感する毎日です。MEL協議会事務局も様々なお問い合わせに嬉しく対応しています。水産エコラベルが一歩一歩社会に定着している証でしょうか。
MELニュースもおかげ様で創刊以来満5年(60号)になりました。今後も皆様との交流のツールとして一層の充実を事務局一同心がけます。変らぬご支援をお願い申し上げます。
会員企業・団体の人事で、理事をお願いしていました三菱商事の山𥔎裕史様が異動されました。御多忙の中、MEL協議会への様々なご貢献に深謝申し上げます。新任務でのご活躍をお祈り申し上げます。
日本中を熱くし、最高の結果を届けてくれたWBCでの侍Jが演じた数々のドラマの余韻の中、間もなく新年度を迎えます。皆様とご一緒に「チーム一丸」の力にあやかって「かつてない変化」の時代に的確に対応したいと念じています。

以上