世界中で干ばつと豪雨の被害が広がり、ウクライナ紛争による食料逼迫に輪をかけると思われます。日本では昨年5月に食料・農林水産物の生産力向上と持続性を実現することを目指す「みどりの食料システム戦略」が策定され、サプライチェーン全体で自給力強化に動き出しています。ニホンウナギ、クロマグロの養殖における人口種苗100%を謳っているのはご承知の通りです。水産業への期待の高まりは、とりもなおさず水産エコラベルの活用に繋がります。
一方、値上げの動きは秋になって一段と拡がっており、生活防衛の見地から産業構造のあり方にメスを入れることが求められています。この様な流れにMELがどの様に貢献するかの社会からの圧力も強まっています。
1.国際標準化問題
GSSIベンチマークツールの新規準(Ver.2.0)への申請はタイムスケジュール通り進んでいます。GSSI事務局から求められている資料はほぼ提出を終り、9月19日の週から順次IE(GSSIの審査員)による書類審査が進んでいます。提出審査報告書は漁業6件、養殖4件、CoC 3件で 、認証機関と認証取得者のご協力で順調に進みましたことに感謝申上げます。
2.認証関連
今月の認証発効は、養殖2件、CoC 3件 の計5件でした。
特記事項として北海道石狩湾系ニシン刺網漁業の漁業認証が8月24日に発効しました。行政、研究機関、事業者の永年にわたる我慢強い努力の結晶に敬意を表します。資源的には江戸から明治にかけての主群であった北海道・サハリン系とは遺伝的に異なる石狩湾系群に対する認証と言うことになりますが、嬉しく思う反面かつて100万トンを漁獲し北海道経済を支えたサハリン系は一体どうなってしまったか悩ましいところです。海水温の上昇等海の様子は決して楽観は出来ませんが、資源を守ることの意義を実証された取組みであり、MELを代表する認証として末永い成功をお祈りします。興味のある方は、日水資のホームページのMEL認証実績から石狩湾ニシン刺網漁業を開いていただくと審査報告書がご覧になれます。
8月26日、ジャパンインターナショナルシーフードショー会場でMEL認証証書授与式が開催されました。今回で10回目となる認証証書授与式ですが、6社の参加があり、出席いただいた各社代表者から日本の水産業復活とエコラベル認証拡がりにかける熱い思いの披瀝がありました。皆様の益々のご発展をお祈りします。
3.認証機関複数化の進捗状況
MELにとって、重要政策の一つであります認証機関複数化の問題は、時間が掛っていますが着実に進んでいます。現時点で取組中の団体は(公財)海洋生物環境研究所(海生研)様でありますが、養殖およびCoCの認証機関としての社内の体制作り、審査員養成と平行してJAB認定の一連のプロセスが佳境に入っています。既に一次審査は終了しており、目下二次審査において養殖2件、CoC2件の現地審査実績が必要であり、日水資様と認証取得申請者様のご協力を得て準備が進められております。
認証機関としての審査能力を審査するJAB様の認定がポイントであり、海生研様が加わって審査機関の、複数化が実現するのは来年春からと考えております。
4.イベントへの参加
- ジャパンインターナショナルシフードショー(8月24-26日開催)の
水産エコラベルコーナーに出展しました。MELに関する説明と認証取得者の商品展示コーナーを設け、MEL認証に関心のある来展者に対応しました。エコラベルコーナーには7&iホールディングス様、福一漁業様、高橋商店様、ダイニチ様、オカムラ食品工業様、ヨンキュウ様の6社が出展され、各社のブースは相乗効果もあり終日賑わいました。また、海外のスキームオーナーのMSC、BAP(GSA)も出展されました。 - 大阪で開催されましたフードストアソリューションフェア(9月7-8日)に出展しました。今回で2回目の出展ですが、対象とする関西のスーパーマーケットの水産エコラベルへの関心も徐々にではありますが高まっている手応えを感じました。
- 9月14-16日シンガポールで開催されましたシーフードEXPOアジア2022に参加しました。水産庁補助事業である「持続的海洋資源利用体制確立事業」の実施事業者に指定された大日本水産会の企画にMEL協議会が参加・出展する形のイベントです。長岡専務理事、冠野事務局長他が出張すると共に、セミナーに登壇しアジア諸国の関係者に日本の現状をプレゼンテーションしました。アジアでも水産エコランベルに関する関心が高まっており、日本から輸出されるMEL認証の水産物も増える中盛況であったと報告を受けています。
- 10 月 19-21 日に開催予定のシーフードレガシーおよび日経 BP 主催のTSSS2022 に参加します。MEL としての活動を報告する出展を行うとともに、20 日の「認証スキームオーナーによる新たな課題解決に向けた取組み」のセッションに MSC、ASC、GSA(BAP)と一緒に登壇します(時間は10 月 20 日 15:45―16:45 です)。参加登録の受付が始まっておりますので、興味のある方はシーフードレガシーのホームページから登録ください。参加費は 3 日間通しで 1 人 5500 円です。
5.認証取得者からのご報告
今月は内水面漁業で初めてMEL漁業認証を取得された郡上漁協様のあゆ友釣漁業について白滝組合長に初年度の状況を書いていただきました。
「郡上のアユ漁業MEL認証を受けて」
郡上漁業協同組合
代表理事組合長 白滝治郎
①長良川と漁業の概要
長良川は、岐阜県の中西部に位置する白山麓大日岳を源流とし、北から南へと流下、その流程は本流の延長160km余り、三重県桑名市を経て伊勢湾へと注ぐ大河で、その最上流部に位置する岐阜県郡上市内の長良川本支流を管轄するのが郡上漁協です。そんな長良川上流にはアユの友釣りや渓流釣りの技法として「郡上釣り」と呼ばれる伝統釣法が息づいてきました。
②郡上鮎流通の歴史とMEL認証
長良川上流域で捕獲されるアユはその産地名を付して「郡上鮎」と呼ばれ、特別なランク付けをされて流通してきました。郡上鮎の名を世に知らしめるに至ったのが「共同出荷事業」と呼ばれる流通システムです。共同出荷とは、一人が釣った魚をそのまま売りさばくのではなく、大勢の釣り人が釣った魚を集めて大きさや鮮度等の均一化をはかることにより付加価値を高めて販売するというもので、現在漁協が運営主体として天然アユの共同出荷事業を行っているのは全国でもまれであり、岐阜県下では郡上漁協のみです。
そして今年2月には郡上のあゆ友釣漁業が国際基準の水産エコラベル認証である「マリン・エコラベル・ジャパン漁業認証規格Ver.2」の漁業認証を取得することができました。本年1月現在日本国内で認証されている漁業認証の中で、淡水漁業では郡上漁協が初の認証取得だそうで、名誉なことと喜んでいます。MEL効果もあってか今年の郡上鮎の出荷量は過去最高を記録しそうな勢いとなっています。一方で、この認証を保持していくためには、永続的な資源管理やそれを可能ならしめるための環境整備等更なる努力が必要であることも痛感しました。
③天然アユ資源の増大に向けて
長良川におけるアユ資源は伊勢湾から遡上してくる天然遡上アユと、流域の漁協が放流する放流アユがあり、天然遡上アユの多少は河川における資源量や漁獲量に大きな影響を及ぼします。そこで、天然アユ資源の増大に向けて流域の7漁協が共同で、アユ授精卵のふ化放流事業を行っています。
放流するアユ種苗の由来についても、遺伝的かく乱を防ぎ、再生産に寄与し得るであろう、岐阜県魚苗センター産の海産系F1種苗の放流に努めています。海産系F1というと交雑種をイメージされやすいですが、親魚はオス・メスともに河川で採捕されたもので、極めて天然に近い種苗であるといえます。漁獲しきれなかった放流魚は親魚として河川での産卵行動に参画することになり、翌年のアユ資源増に寄与するというものです。この放流方法は「長良川方式放流手法」と呼ばれ、今では天然遡上のある河川を擁する全国の漁協からも注目されています。
良いアユが育つためにはアユのエサとなる良質な付着藻類を育む良好な水質を保つ水が流れる川であること求められます。そしてその水は山から流れ出します。つまり、良い山作りこそが良いアユ作りにつながるわけで、郡上漁協では平成22年に「長良川源流の森育成事業」と銘打って広葉樹の植樹活動を開始し、以後毎年継続して実施しています。
④後継者育成・伝統漁法の継承
漁業や釣りの世界においても高齢化とそれにともなう後継者不足は避けて通れない問題です。各種伝統漁法の継続なくして持続可能な漁業の継承はあり得ない。若年層や釣り初心者を対象とした各種講習会や、釣り大会等のイベントの開催によって釣り人口を増やす努力を重ねているものの、なかなか先が見えてこないのが実情ですが、後継者育成は待ったなし、何より優先すべき重要課題であり、あらゆる手段を以って鋭意取り組んでいかなければいけなりません。
⑤結びに
安定的且つ継続的なアユ漁業を推進する上で目の前の山積する諸問題をクリアしながら漁業者はもとより遊漁者や流域の人々の声に耳を傾け、漁協のあるべき姿を模索しながら、川や魚に関わるすべての人たちと手を携えて、未来に向かって邁進していかなければならない。そんなことを考えさせられた今回のMEL認証でした。今後とも関係のみなさんのご指導ご協力をお願いしたいと思います。
白滝組合長、有難うございました。組合長はじめ関係の皆様の郡上アユ にかける思いがひしひしと伝わりました。今後とも資源を守り、地域に伝わる文化の継承への皆様の努力が実ることを期待申上げます。
6.関係者のコラム
東日本大震災から11年余を経過しましたが、宮城県石巻で震災復興を牽引された石巻水産振興協議会須能 邦雄会長(前石巻魚市場社長)にお願いし、石巻の皆様の水産にかける思いを語っていただきました。
「国際水産都市『 石巻 』の再興を図る」
石巻市水産振興協議会
会長 須能 邦雄
11年前の東日本大震災により石巻の水産業界は壊滅的な打撃を受けましたが、国や各方面からの支援により「国際水産都市石巻」を合い言葉にお互い励まし合い立派に再生を果たしました。
しかし、現在は重要魚種の不漁、コロナ禍による消費の低迷、ウクライナ紛争によるエネルギー不足などで水産業界は戦後最大の危機的状況です。この様な中で、幸運にも我々東北には希望が与えられました。仙台育英高校が今夏の甲子園大会で優勝し深紅の優勝旗の白河越えを果たしてくれました。
須江監督はエースを5名育て選手への負担を軽くさせ、また相手チームに球質を慣れさせない戦略戦術をとりました。一般の選手には個人の能力に応じて役割分担をさせ充分な予備選手を育成しました。監督は個々人と充分なコミュニケーションを図り努力目標を共有しモチベーションを高める事でチームの総合力アップを図る日々の努力の結果が優勝につながったものと想います。
我々は須江イズムから多くの教訓を学びました。
社内における人財育成にも共通目標を揚げ現在の自分の位置を確認する事で仕事へのモチベーションを高められると思います。地域内の各企業間においても各社の特色を生かした連携強化で地域力を高める事が出来るはずです。
石巻では新魚市場建設にあたり、縮み志向の我々は狭い空間を上手に工夫して使おうと考えがちですが欧米人のHACCPの考えは交差汚染を避ける為に余裕を持つべきだとの考えと理解して漁業種類別( 漁法別 )に水揚げ、陳列、販売としたため約880mの水揚棟となり世界最長としてギネスから認定を受けました。
また石巻の知名度を高める為にブランド名として『金華』を冠として春-養銀、夏-鰹、秋-鯖、冬-鍋もの(カキ.タラ.サケ.アンコウ等)としました。更に国が認定する地理的表示(G-I)として「宮城サーモン」があり金華鯖のG-I化を検討中です。
世界の潮流は環境保全に配慮した持続可能な商品作りですが、残念乍ら国際認証水産エコラベルを石巻圏内ではまだ取得しておりません。※注 ニチモウマリカルチャー様(石巻営業所の宮城ニチモウ 養殖ギンザケ生産者グループ)がMEL養殖認証を取得しておられます。
復興時の所期の目標であった『国際水産都市-石巻』の実現の遅れを謙虚に反省し、須江イズムに学び、名実共に国際水産都市に相応しくなる様に旗振り役として務めますので御指導のほど宜しくお願いします。
須能様有難うございました。「国際水産都市石巻」への皆様の思いが強く伝わってきました。須能様はじめ、石巻の皆様の益々のご発展をお祈りします。
是非MELを思いの実現のために使ってください。
7.販促関連
スーパーのチラシもとうとうここまで来ました。関東のスーパーのヨークマート様では8月27,28日の2日間「サスティナブルシーフードフェア」としてチラシ特売を行いました。ASMIのアラスカ産縞ホッケ、たらこ、銀ダラに加えMELのマダイが陳列されました。
7&iでは「GREEN CHALLENGE 2050」の方針に沿って、セブンプレミアムを含むオリジナル商品の持続可能性を高める政策を進めておられます。
現在取扱っておられるME認証商品はブリ、カンパチ、マダイ、ヒラメ、ギンザケ、アユ、ワカメおよびカツオの8魚種で、イトーヨーカドー、ヨークマート、ヨークベニマルで展開しておられます。また、イベントのところでご報告しましたが、ジャパンインターナショナルシーフードショウにも7&iグループとして活動を紹介するブースを出展され好評でした。
8.審査員研修開催について
次回の審査員研修は新規審査員養成を目的として 10 月 24~26 日に開催予定です。詳細は MEL の HP に掲載しております。多くの参加をお待ちしております。
▷新規審査員研修 https://www.melj.jp/news/3925
8 月の企業物価指数は前年同月比 9.0%の 115.1 と 18 ヶ月連続前年同月を上回りました。資源だけでなく、コスト上昇が事業を持続する上で厳しい局面を形成しており、皆様にとり頭が痛いことと思います。流通業は「仕入れる魚がない」、消費者は「買える魚がない」のため息が聞こえて来ます。
イギリスのエリザベス女王の国葬を控えた 9 月 18 日は考えさせられる日曜日となりました。朝日新聞は 1 面と 2 面を使って、大々的に千葉県外房のキンメダイ漁の自主管理による漁業資源管理を成功例として報道しました。自主管理については MEL ニュースでも日本の資源管理の特長として前向きに取り上げてきましたが、キンメダイの様に深海魚でありながら広域に移動する魚種について行政による管理と漁業者による自主管理の組み合わせが有効に生かされていないことに歯がゆさを覚えました。
2年余り前、今回の記事にも登場され、ご自身がキンメ漁師である千葉県沿岸小型漁船漁協の鈴木正男組合長から伺った調整の苦労話を思い出しています。
もう一つは、日経新聞1面のチャートは語る欄の「ユニコーン10年目の躓き」です。ユニコーンは、企業価値が10億ドルを超える未上場企業と定義されているのはご承知の通りです。未実現の技術やコンセプトに対する過剰な期待が支えたスタートアップの事業モデルは、金融引き締めで転機を迎えていると言う報道です。水産においてもスタートアップの活躍が拡がっている中ですが、やはり「汗をかいてなんぼ」でなければこの業界では生き残れないのかと、40年前の200海里バブルで業界が受けた傷とその治癒に掛った時間を思い返しています。
重たい話になりましたが、自然災害に備えながら実りの秋をモノにしたいと願っています。
以上