今月は東日本大震災から10年の節目、あの未曾有の惨事の記憶の風化を感じている人が80%を超えるという調査結果に考え込まされました。
言葉では充分に意を尽くせませんが、改めまして被災されました皆様に心からお見舞いを申し上げますとともに、試練に折れることなく前に向かって進んで居られる方々にエールを送りたいと思います。
NPFC(北太平洋漁業委員会)の年次会合で、サンマのTACの4割削減が様々な問題を抱えながら合意され、資源保護への足並みが何とか揃いました。一方で、某国による政府がらみのIUUが国際フォーラムで指摘されています。
水産資源を持続的に利用する考えがコロナ禍を機に世界に定着しつつある中で、依然として資源保護は「長い旅」の途上にあることに「水産エコラベル」をお預かりする身として厳しく受け止めています。
1.国際標準化関連
ボールはGSSI側にある中、今月も大きな進展はなくMELとしては待ちの
姿勢のままでした。今後のスケジュールの提示をGSSI事務局に求めたところ、MELの承認継続のGSSI理事会の決定は7月後半にずれ込む(当初の計画3月末)との返事が来ております。前月号でも書きましたが、承認の遅れが直ちに認証取得者の皆様のマイナスにはつながりませんので、先方の要求や業務の進捗に会わせ粛々と対応しております。
2.累計認証件数が100件になります
今月の認証は漁業0件、養殖1件、CoC9件計10件の予定です。結果、累
計認証件数は101件に到達する見込みです。2019年2月28日に最初の7件が発効して以来2年1ヶ月で大台に乗せることが出来ました。認証を取得された事業者、認証機関はじめ関係者のご盡力に敬意を表すると共に、認証制度を政策として推進いたいた行政に深謝申し上げます。
コロナの関係もあり、認証証書授与式が開催出来ず苦慮しておりましたが、3月17日にシーフードショー大阪の機会をとらえ実施いたしました。関西以西で未だ授与式に出席いただけていない方を中心にご案内を差し上げましたところ、コロナ感染を心配される方が多く、結果7社・団体の出席となりました。皆様代表者がご自身で出席され、水産物の持続的利用推進への力強い決意表明をいただきました。今まではMELの認知度の低さが皆様からご指摘いただく問題点の中心でありました、風は明らかに変っています。折角取った認証だから「自らの事業の役に立つように使う」と発言される方が増えてきていることを嬉しく受け止めています。MEL事務局としてよりお役に立てる様一層の努力をいたします。
3.理事会を開催しました
3月23日に定例の理事会を開催しました。
定例部分として決算に関する事務局の方針が承認されました。また、1月に開催の規格委員会で承認をされました養殖規格に関する次の3つの課題につきまして
- 中間種苗の取り扱い
- 認証単位に関する指針の設定
- モイストペレットの使用基準
について審議いただきました。議論はありましたが、①の中間種苗の取扱いは養殖認証の判定基準(審査の手引き)に追加する、②の認証単位に関する指針は判定基準(審査の手引き)の付属書として取扱う、③のモイストペレットの使用基準はMELの養殖認証の判定基準(審査の手引き)で示している限定的使用即ち「冬期の低水温時、魚病への対応時、出荷前の品質向上のため」に限ることを、事業者、審査機関、審査員への徹底を求めることで承認いただきました。
内容はMELホームページに掲載しますが、事業者の皆様には年次審査を通して実態を確認させていただくことになりますのでご理解と対応をお願いします。
4.認証取得のための講習会
今月は2件、12日の京都市場(リアル開催)と29日の鹿児島(オンライン開催)で、ここへ来て開催の機運が再び高まっています。京都市場は流通において日本で初めて開設された中央市場であり、かつ日本の顔である観光・文化都市の台所を担っています。また、京都府機船底曳網漁業連合会が日本で最初の水産エコラベル認証として2009年にズワイガニと赤カレイでMSC認証の取得という先駆けの歴史を持って居られます。今回は、開設者である京都市の行政と市場の皆様がご一緒に水産エコラベルについて掘り下げて考えて見ようという開催で、特にリード役としての行政の真剣な取り組みは今後の普及に繋がると受け止めました。
鹿児島県は、MEL認証取得が既に9件あり、愛媛県と共に養殖を中心にエコラベルへの取り組みが進んでいます。講習会も2019年1月に開催をしており、今回は2回目です。今後、漁業を含め更に認証を拡げたいとの行政の方針の下の講習会であり、一段と盛リ上がった議論を期待しており、状況は来月号でご報告します。
5.審査員研修
今月の審査員研修は、CPD研修(既に審査員資格を持っておられる審査員に対するブラッシュアップ研修)をリアル方式で7名の参加で実施しました。
例によって、研修と判定試験を組み合わせる厳しいカリキュラムでしたが、今回の研修で資格をお持ちの全ての審査員はMELがスキームオーナーとして求めている技能水準が担保されたことになります。
因みに、現在MEL審査員資格の保有者は漁業8名、養殖15名、CoC19名、審査員補は漁業58名、養殖53名、CoC62名(資格の重複取得を含む)です。審査員資格の有効期間2年間であり、その間にCPD研修受講および判定試験に合格することに加え自主的な学習を通して継続的スキルアップをお願いしております。
6.イベント関連
今月はFOODEX(3月9-12日、幕張メッセ)とシーフードショー大阪(3月17-18日、大阪ATC)に出展しました。コロナ感染抑制のための制限の中であり、出展者、来場者ともいささか寂しい開催となりました。
FOODEXではMELは水産エコラベルに関する啓発活動と共に、MEL認証商品展示コーナーを設け、13社・団体の認証取得者の商品を来場者に訴えました。MELのブースの回りには宮崎県漁連様、オカムラ食品工業様、ヨンキュウ様等輸出促進を意識される皆様が出展しておられました。認証だけでなく商品とのコラボがSDGsと水産エコラベル認証の結びつきを連想させるポジティブな相乗効果をもたらしている印象を感じました。当然のことながら、認証された商品があってエコラベルが実感出来るということでしょう。
シーフードショー大阪ではFOODEX同様、啓発活動と認証商品展示を行いました。本年はスペースがゆったり取れ来場者とのコミュニケーションがうまく行えたと受け止めています。来場者の水産エコラベルに関する関心は、明らかに高まっていることを感じました。また、15社・団体のMEL認証取得商品を展示しご紹介しましたが好評でした。
認証関係のところで触れましたとおり、シーフードショーの機会を捉え審査機関である日水資様による認証取得者への「認証証書授与式」を行い、7社・団体の皆様に出席いただきました。授与式終了後、大日本水産会主催で「認証取得者とスキームオーナー(MEL)の懇談会を開催し、水産エコラベルあるいはMELへの期待と問題点を率直に意見交換しました。中でも、他社・団体の様々な事例について情報公開を事務局としてどの様な形で実施出来るか是非研究したいと思います。
シーフードショー大阪のサイドイベントとして開催されました「ATC海洋Week」のセミナーにおいて「SDGs達成に向けた日本発の水産エコラベルのお役立ち」をテーマにMELのプレゼンテーションを行いました。
大阪湾の漁業は、大阪府資源管理船びき委員会と紀伊水道中央機船船曳組合のシラス、イカナゴでMEL漁業認証を取得済であり、さらに摂津船びき網漁業協議会と大阪府鰮巾着網漁業協同組合および加太漁業協同組合が漁業認証を申請されています。また、今回のセミナーでも3コマの大阪湾における資源や漁業に関する発表がある等、持続可能な漁業への高い意識を持って取り組んでおられることをうれしく思います。
7.認証取得者からのご報告
今月は、MELニュース3年間の締めとして、自然と魚にやさしい養殖を通して「おいしい魚つくり」を実践しておられる(株)兵殖様の中迫 猛社長にお考えの披瀝をお願いしました。
「安心安全で美味しい良質な日本の魚を世界の人々に食べてもらいたい」
株式会社 兵殖
代表取締役社長 中迫 猛
当社は、大分・宮崎・長崎・高知と4県の沖合で、ブリをメインに、一部、
マグロの養殖もしています。「美味しい魚を創り育てる」この信条のもと養殖を行ってきました。通常の生け簀の約48倍という大きさの「ひろびろいけす」で育てており、この養殖方法が、MELの基本である持続可能な養殖に繋がると思い、2019年の7月にMELを取得させていただきました。
私なりには、今年入社した新入社員の方々が、定年を迎えても尚、漁場が未来永劫使えて、事業が続けられるような海の環境を維持して消費者の皆様に、安心・安全は当たり前で、美味しい魚だねと言われるようにしていく事がMELの考えと思っています。
昨年は、年初来、ブリはもちろん、他の養殖魚の在池量が多く、相場の下げによる激しい年になると予想していたところに、新型コロナ禍が重なり、かなり厳しい年となりました。今年はまだ、アフターコロナを見直すのは難しいですが、徐々に業界も回復していくと思います。
数日前、取引先のロンドンの方と話をしたところ・・・今年のEUの夏~秋のバカンスの予約が、コロナ前の2~3倍入っている。ワクチンが普及して、人の移動が今までの反動で、すごく大きなものとなる・・・と話されていました。世界規模での外食等の復活に期待しています。
日本の安心・安全で美味しい良質な魚を、このチャンスに、是非、輸出していきましょう。その為にも、マリン・エコラベル・ジャパンの方からも、後押しをよろしくお願いします。
8.関係者のコラム
今月は専門部会で漁業認証規格を担当いただいております東京海洋大学教授田中栄次先生にお願いしました。田中先生には、MEL認証規格の科学的論拠の構築はじめ審査員研修の講師等広範にご支援いただいています。
「MELジャパンの変貌」
東京海洋大学 教授
田中 栄次
私がMELジャパンに関わったのは2007年の立ち上げからである。その当時から日本の小規模漁業者が認証を取得出来るよう審査料を安く仕上げることを念頭に審査基準・審査方法を審議した。私も交通費だけで会議に参加しており、今にして思えば当時のメンバーの思いで旧MELの審査基準が出来たと思う。
廉価に仕上げるために、なるべく書類審査だけで行うことと日本の漁業者を対象に日本で知られている優良事例などの審査を念頭においていた。言わば仲間内の審査ではあったが今でも旧MELで認証された日本型の資源管理は優れていると思う。
MELは国際規格のGSSIの導入で大きく変わった。一番大きな変更点は欧米文化の導入である。欧米社会では科学者の地位も高く科学的判断基準が重要視されている。また関心が強い環境問題への対応や、誰もが納得できる公平性や透明性の確保も重要となった。このため新MELでは生物学的資源評価と管理基準に基づく科学的・客観的基準が中心となり、その公開性なども審査基準となっている。漁業が与える種間関係や生態系への影響評価は1つの大きな柱になった。一般の人が読んでもある程度は理解できるような報告書の作成も求められ、簡単な審査報告書でよかった旧MEL時代は終わったが国際的に通用する認証基準になった。
田中先生有難うございました。改めて日本発の水産エコラベルが世界で認められるための産みの苦しみに耐えられた先達に敬意を表します。これからは日本人にとって、どちらかというと苦手な世界に向けての胸を張った発信を、どの様な場でどの様に行うかご指導をいただきながら真剣に取り組んで参る所存です。
MELニュースは、皆様のお役に立つことを願いつつ創刊から3年を経過しました。余り長いと読んでいただけない、かと言って短すぎると思いが伝わらないと悩みながらの試行錯誤の3年でした。折から累計認証数も100件に到達し、様々なイベントにもお声をかけていただける様になって来たことを皆様のご支援の賜と深謝申し上げます。
4年目に入ります新年度から新しい企画も加え、一層充実した内容をお届したいと考えております。どうか今後ともよろしくお願い申し上げます。
以上