MELニュース2020年 12月 第33号

2020年12月 33号

 漁業制度の大幅な見直しを盛り込み70年振りに大改正された漁業法が12月1日に施行されました。日本経済新聞の志田富雄編集委員は、施行を前にして11月29日のニュースフォアキャストで「理想的な漁業は科学的な調査で正確な資源量を掴み、持続的に最大利用してゆくことだ」と論じておられます。改正漁業法が成立してから2年様々な議論が行なわれて来ましたが、未だ関係者間の納得・共感にいたっていない様です。
 引き続き日本の水産業を輝かせるための議論と行動が求められています。水産エコラベルもポストコロナの新しい社会にお役立ち出来る制度として、改正漁業法施行を奇貨として前向きに取り組みたいと念じています。

1. 国際標準化関連

 GSSIの承認継続審査(MOCA)が開始されました。11月30日にMELのセルフ・アセスメント(1年間に行なったA(ガバナンス)、B(マネージメント)、C(養殖)、D(漁業)に関する自己チェック結果)と審査報告書(初回審査および年次審査)の英語訳(漁業4件、養殖5件)を提出しました。MELから提出された資料は、GSSI本部のチェックを経て審査員に送られ、精査が始まりました。
 生憎クリスマス休暇の時期に当たっておりますが、GSSIの審査員からはコンタクトがあり情報交換は継続的に行なわれています。

2. 認証関連

 今月の認証は漁業1件、養殖5件、CoC 2件計8件でした。累計は漁業6件、養殖35件、流通加工42件、計83件で越年となりました。コロナの関係もあり、思うに任せない年でしたがご関係の皆様の真摯な努力にお礼を申し上げます。
 特記すべき事項として、今月の漁業認証において青森県の十三漁協様のしじみ漁業が、旧MELから新MELへの移行の第1号として認証されました。工藤組合長以下皆様の粘り強い取り組みに敬意を表します。資源量については、ピアレビューアーから30年間にわたる漁獲統計を資源動態の推定に利用すればより科学的に根拠のある判断が可能との見解が示されました。十三湖のシジミは昨年の漁獲量が1,095トンの小規模漁業ですが、漁業者による自主管理に加え、流通加工認証を取得された事業者を通して消費者までのMEL認証のサプライチェーンが完結することが期待されます。

3. ガバナンス関連

 12月4日と7日に専門部会を開催し、本年認証された漁業、養殖の審査報告書に対し、最近寄せられた異議申し立て等についてそれぞれ専門の立場から議論をいただきました。認証審査と認証決定に関しては審査機関である日水資が経過を検証しMEL協議会に報告、この報告を受けてスキームオーナーであるMEL協議会が対応することになります。この対応にあたり、上記の専門部会の意見を反映させていただきます。
 冒頭に記載しました改正漁業法施行と共に、12月4日に国会で「特定水産動植物等の国内流通の適正化等に関する法律」が成立しました。既に2017年に日本も加入している「違法漁業防止寄港国措置協定」の実効を高めることが期待されます。「日本発の世界が認める水産エコラベル」を標榜するMELにとりまして、とかく指摘されることが多い日本の水産業への信頼につながることへの意味ある一歩と受止めています。取り敢えずは密漁の多い一部の魚種が対象ですが日本全体で前向きに進んで行くことを願っています。

4. 会員募集関連

 今年は、コロナもあり会員募集は控えておりましたが、6月に三重県漁連様、そして12月に(一社)海外まき網漁業協会様に入会いただき、会員数は正会員41,賛助会員1の計42企業・団体となりました。会員の皆様の資源の持続的利用へのご理解とMEL協議会に対するご支援に深謝申し上げます。

5. 認証取得者からのご報告

今月は、コロナ禍で様々な試練を受けているブリ養殖業の近況について宮崎県の黒瀬水産の泉田昌広社長に報告をいただきました。

「ブリ養殖事業者として」

黒瀬水産株式会社
代表取締役社長 泉田昌広

 当社は宮崎県の沖合でブリを養殖しています。人工種苗によって脂ののった魚を周年出荷できることが大きな強みです。ここ数年は、世界中に黒瀬ぶりをお届けすることを目標に、まずは東アジア、ヨーロッパを中心に輸出拡大に取り組んできました。

 順調に輸出を増加させる中、SDGsの浸透に伴い“企業の責任”に対してお客様の興味が強くなったと感じています。労働環境や法令順守はもちろん、環境や資源に対する姿勢も、“取引先として適切な会社”であるかどうかの判断材料となってきています。
 SDGsの方針はMELやASCなどの国際環境認証と共通しています。当社はこれらの認証取得を通し、“企業の責任”を果たせる体制を構築し、お客様の要望を満たすことができました。
 このように、ブリのグローバル商材化には国際環境認証が必要です。しかし、認証品は生産面、販売面における課題があります。生産面においては、国際的に求められる水準が、日本の法律や基準と乖離があることがネックになっています。そこで、当社も参加している日本ブリ類養殖イニシアチブ(JSI)の活動を通してこれを埋められないか模索しております。販売面においては、さらなる輸出増加のためにMELの販売ツールとしての活用法を模索しているものの、企業は興味を示す一方、消費者はそうでもないのが現状です。現にヨーロッパ以外では消費者の興味が低く、付加価値として反映されません。これは環境認証全般に言えることかもしれませんが、我々養殖業者が努力して取得した認証がより活かせるものになるよう、MEL協議会の活動に期待しています。
 国際環境認証はこれからの水産業に必要なものになることは間違いありません。水産業の未来のために、そして自身の繁栄のために、引き続き持続可能な養殖業を目指していきます。

 

 泉田社長有難うございました。農水省から「養殖業成長産業化総合戦略」が発表され、日本が目指すべき養殖業に野心的な目標が設定されました。是非、業界を挙げて進化を続けていただくことを期待申し上げます。

6. 関係者のコラム

 今月は、MEL協議会のアドバイザリーボードにおいて経済ジャーナリストの立場でご指導をいただいております板垣信幸様(元NHK解説主幹)にお願いしました。

「持続可能性」に疎い?日本

経済ジャーナリスト
元NHK解説主幹 板垣信幸

 日本は様々な分野で「持続可能性」に疎い社会だと感じざるを得ない。記者や解説委員を40年以上経験し、このことを痛感した過去の様々な事例が頭をよぎる。
 初任地・岐阜県では中京地区の工業用水確保という名目でダムのない一級河川の長良川に河口堰を作るという自然破壊、2度目の転勤の石川県では能登半島への強引な原発立地、隣の福井県には原発銀座と呼ばれる集中立地。いずれも強い反対がありながら、経済優先の前に大きな世論にはなりえず、環境やエネルギーの未来を見据えた「持続可能性」の議論は進まなかった。それが、福島第一原発事故につながったように思う。しかし、この頃は持続可能性の萌芽が生まれた時期でもあった。全国の先端産業の特別番組を作った昭和58年に訪れた北海道では初期の太陽光発電の試みが始まっていた。
 7年の地方勤務を経て東京に戻って旧通産省担当になった時に、この技術促進のために初の補助金制度を付けることを後押した。しかし、その補助金は原発予算に比べれば微々たるもので、一時期世界で最も進んでいたこの分野の技術や立地も、原発重視の陰で急ブレーキがかかり、中国やドイツに追い越されている昨今である。
  こうした中、水産の分野でも動きがあった。農林水産省を担当した昭和59年には日米捕鯨摩擦が勃発した。クジラは高等生物で貴重な存在であるとして捕鯨禁止を主張する米国、日本は捕鯨は伝統産業・文化であり、生態系の維持のためにも科学的根拠に基づいて議論すべきだとしたが、及ばなかった。横須賀の港から南氷洋に向かう最後の商業捕鯨船を背景に、生中継で昼のトップニュースでリポートしたほろ苦い記憶が残っている。
 その後、日本は「獲る漁業から育てる漁業へ」の道も探りながら今に至っているが、日本近海での中国や韓国といった国々の違法操業と乱獲に悩まされる中、日本外交は持続可能性に向けた有効な手を打てないでいる。
 ところで、持続可能性が重要なのは何も生物や自然環境だけではない。経済・企業経営においても問われる問題だ。後先を考えずに金融緩和と財政出動によって作り上げた「バブル景気(1986~91年)」とその崩壊。経営の持続可能性が失われて企業倒産が相次ぎ、日本経済は長く暗い道に迷い込んだのである。そして、自民党政権復帰の金看板である超・金融緩和と借金による財政出動で生み出した株高依存のアベノミクス・バブルも景気回復の実感は乏しく、いつか来た道を懸念させる。先進国で最悪の日本の財政悪化、マイナス金利にまで踏み込んだ日銀の異様な金融政策、そこには財政や金融の長期展望と持続可能性の欠片もない。とりわけ心配なのはコロナ禍における医療体制の持続可能性である。度重なる財政出動による財政悪化を防ぐために急増する医療費を切り詰めてきたため、施設も医師・看護師も不足し、患者増加への対応が喫緊の課題である。
 マリン・エコラベル・ジャパン協議会の取り組みは、単に商品の差別化にとどまることなく、水産業の持続可能性を求めるものであるが、こうした考えを日本社会の様々な分野で自問自答し、より確かなものに出来るのかが今まさに問われている。

板垣様有難うございました。永年現場の取材に関わられたジャーナリストならではの感性に溢れるご指摘に、改めて日本が直面する今日の苦悩の原点を学んだ気がいたしました。アドバイザリーボードの会議でも鋭く指摘いただく諸点と共に深く心に刻んで行動します。

 

 世界が新型コロナウィルスに振り回された2020年が、終息への道筋が見えないまま暮れようとしています。
 水産業界にとって、本当に厳しい出来事が続きました。そして漁業生産は400万トンを割るかも知れないところまで追い込まれました。
 イギリスのエリザベス女王のクリスマスメッセージで「アナス・ホリビリス:ラテン語で『ひどい年』の意味」が使われたのは1992年のことでした。それから30年近くが経過しました。来年こそは、反対語である「アナス・ミラビリス:『素晴しい年』」を実現できるキッカケの年となる様皆様との協働を一層進めたいと願っています。
 皆様にはどうか良い年をお迎え下さい。

以上