MELニュース2020年 11月 第32号

2020年11月 32号

 北からは雪の便りが頻りです。季節の魚が「お前もか」の不漁のまま、暦は立冬から小雪へと進みました。日本もついに新政権の下、気候変動の元凶とされる地球温暖化ガス排出について2050年ゼロ目標を宣言し、環境問題から逃げない姿勢を内外に示しました。
11月2日に東京で行なわれました日本食糧新聞社制定、農林水産省・環境省後援の「食品安全安心・環境貢献賞」の贈呈式で、受賞された日清食品ホールディングスの安藤宏基社長はグループの決意を「EARTH FOOD CHALLENGE 2030」として熱く語られました。「地球と人の未来のために、すぐやろう!」を合言葉に持続的成長に向けて動き出しています。同社が使用する原料のうち、持続可能な認証付のパーム油の割合を現在の20%から2030年には100%にすると言う意欲的な目標を掲げておられます。
私たちも負けずに行動しましょう。

1. 国際標準化関連

GSSIの承認継続審査(MOCA)は、要求されている審査報告書の英訳に多くの時間を費やしまた。外注せずすべて事務局のスタッフが手分けして担当していますが、GSSIの審査員からの鋭い指摘もあり専門部会の委員の皆様にご支援いただきながら対応しています。次のステップは審査員の報告書が作成され、ベンチマーク委員会での検討に移ることになりますが、一歩一歩着実に進めています。
10月28日に、GSSIの承認を受けているスキーム間でCoC認証を相互承認するための研究の手始めとして、アラスカRFMのスキームオーナーであるCSC(Certified Seafood Collaborative)とリモート会議を行いました。
認証の中でもCoCは国際的に相互承認の輪が出来れば産業のみならず社会にとって重複の無駄を省けると認識されており、今後議論を進めて行くこととしました。

2. 認証関連

今月の認証はCoC3件のみで合計で75件となりました。
ピアレビューを取り入れた関係で、審査の最終の段階で審査員がレビュアーから指摘のあった科学的根拠他の確認および修正等に時間がかかる実態が発生しています。MEL協議会としては、より質の高い審査報告書とするため避けられないステップであると受止めています。

3. ガバナンス関連

MELのガバナンス上の課題の一つでありました、認証審査過程で申請者に事故が発生した場合のスキームオーナーが取るべき処置について、有識者にお集まりいただき議論をいたしました。MELが国際標準化されたスキームとして、申請者に法令に違反する事実があった場合および自主規制を遵守しなかった場合に、審査の一時停止(および再開)等の処置を取る際の基準を定めるものです。
11月19日に理事会を開催しました。定例の理事会ですが議題として
① 上期の活動および財務状況報告
② 諸規定の追加、変更
等について議論いただきました。上記の認証審査過程の事故への対応は、スキーム文書に追加することを承認いただきました。
内容については、理事会での指摘を修正の上HPに掲載いたします。

4. MEL審査員研修関連

16~18日MEL審査員研修を開催しました。今年度は7月29~30日のCPD研修(既に資格をお持ちのMEL審査員スキルアップ研修)に続き2回目となりますが、今回は、新規審査員養成とCPD研修を兼ねるやや変則となりました。受講者にとって極めて厳しいカリキュラムではありましたが、中身の濃い研修となったと受止めています。
11月現在の審査員の状況は、漁業6名、養殖13名、CoC17名、延36名(重複有資格者があり人数としては18名)です。研修を終了し、判定試験に合格して「審査員補」の資格を得ておられる方は漁業53名、養殖46名、CoC55名です(重複取得がありますので人数としては58名)。審査員補は審査機関の日水資の内規により現地審査へのオブザーバー参加が求められています。更にMEL協議会の審査機関への要求事項に沿って指導審査員の下で2件の初回審査または更新審査に従事する経験を経て審査員となれる規則になっており、時間はかかっていますが審査体制は質・量とも充実しつつあります。
課題となっています認証機関複数化については、海生研様がJAB認定申請の段階まで進みました。

5. イベント関連

MELニュース先月号でご報告しました9月30日開催のMELミニワークショップの概要をまとめHPのEvent Informationに掲載しました。

今月は、コロナ下ではありますが3つのイベントに参加しました。

  1.  10月31日~11月1日に(株)SOUL FOOD JAPAN主催、農水省、大日本水産会後援で開催された「2020なんでもツナガル芝公園-SDGs村-」に出展しました。来場者は一般の皆様ですから、消費者への訴えの視点では特に子供さん連れのファミリー層が多いだけに一定の効果があると受け止めています。TBSのウェザーニュースで放映され、また港区会議員の丸山たかのり氏のブログでも紹介されました。
  2.  11月7日に開催された東京都水産物卸売業者協会および東京魚市場卸協同組合主催の「豊洲市場から水産資源を考える」シンポジウムに協力の立場で参加させていただきました。横浜国立大学松田裕之教授の基調講演とMELからの報告に続き、松田先生を座長に生産者(北海道漁連、東町漁協)、大卸(卸売業者協会、全水卸)、仲卸(東卸組合正副理事長)、小売(イトーヨーカ堂)・外食(ロイヤルホールディングス)の代表者により「水産エコラベルを活用した卸売市場初の流通モデル構築」をテーマにパネルディスカッションが行なわれました。この内容はYouTubeおよびTwitterでライブ配信され、視聴者からディスカッション中に質問が寄せられる等注目の高さを感じました。
    テレビ東京のニュースでも早速シンポジウムの模様が放映されました。また会場ではMEL認証取得者の商品の展示が行なわれ、15社(漁業4社、養殖11社)から合計32点の商品が寄せられ大いに賑わいを見せました。
    シンポジウムの第2部ではMELCoC認証証書授与式が開催され、大卸1社(築地魚市場様、9月に認証済み)と仲卸2社(山治様、築地太田様、10月に認証)に対し審査機関である日本水産資源保護協会高橋会長より認証証書が手渡され、その後3社から力強い決意表明がありました。
  3.  今年はオンライン開催となりましたシーフードレガシーおよび日経ESG主催の「東京サステナブルシーフード・シンポジウム2020」の11月10日の「地域生産・国際認証」のセッションに参加しました。「国内の漁業者はなぜ認証取得に踏み出すのか」をテーマの下、日本漁業認証サポートの鈴木代表をファシリテーターにMSC日本事務所、臼福本店、海光物産およびMEL協議会から代表者が出席し活発な議論が行なわれました。MELからは「MELは関係する皆様と力を合わせ、多様で持続可能な水産業を実現しポストコロナの社会を支える」ことを訴えました。
    Seafood Legacyの公式サイトに動画が公開されています。

https://sustainableseafoodnow.com/2020/

イベント関連の写真は次の通りです。

  • ① 「なんでもツナガル芝公園-SDGS村-」におけるMELブースの模様。
    子供世代から親世代への噴水効果を期待しています。

  • ② 「豊洲市場から水産資源を考える」シンポジウムと展示商品

  • ③ 東京サステナブルシーフード・シンポジウムにおけるMELが参加した
    パネルディスカッションの模様。(事前収録時の写真)

6. 認証取得者からのご報告

『日本の豊かな海を守るマリン・エコラベル』

金子産業株式会社

代表取締役社長 木村知己

当社は2019年MEL養殖認証、2020年流通加工認証をクロマグロと真鯛で取得させていただきました。MEL認証の取得が実際の営業活動に有効であったか否か、残念ながら答えはNOでありました。MEL認証の取得については皆様から大変好意的に受け取っていただきましたが一部の海外取引を除いて取引条件・価格などに反映するものではありませんでした。 欧米ではMSC・ASC認証の有無が消費者の購買行動にかなりの影響を与えているとのことですが残念ながら日本国内でのMELも含めたこれら認証への理解度は極めて低いと感じざるを得ません。
一方で昨今の日本国内の漁業・養殖業を取り巻く環境は劇的に変化していると強く感じています。秋刀魚・イカ・秋サケなどの一般大衆魚と言われた魚の不漁、過去に経験のない大型風水害の発生、夏場の海水温の異常上昇など気候変動によると思われる現象が大きな問題として我々の前に立ちはだかり始めました。地球環境の変動は漁業・養殖業に関わる弊社にとっては大問題です。MEL認証取得過程で指摘いただいた様々な項目実施が日本の豊かな海を守ることに繋がり、ひいては弊社事業の継続に繋がると思います。
SDGsの国際目標はまさに他人事ではありません、海の恩恵を受けて事業を行っている会社として、⑭海の恩恵を守る⑬気候変動への対応 を強く意識していきたいと思います。

 最後に、海洋立国日本の豊かな海を守るためにマリン・エコラベル・ジャパンの活動が一歩づつ前進し拡大していくことを祈念するとともに、一参加認証企業として豊かな海を守る活動に取り組んでまいります。

 

 

木村社長有り難うございました。業界に先駆けてクロマグロの養殖認証を取得いただいたにもかかわらず、お役に立っていない現状は誠に申し訳ない限りです。今後ともご一緒に前向きな取り組みが出来ることを願っています。

7. 関係者のコラム

今月は、MELの規格委員会の委員をお願いしております東京大学大学院
黒倉 壽名誉教授に、認証制度の本質的意味についてお話をいただきました。

「エコラベル認証のメリット」

東京大学大学院
名誉教授 黒倉 壽

 JABEE(日本技術者教育認定機構)の黎明期(2000年ごろ)に農学系の代表として関与したことがあるので、ついついMELをJABEEと重ね合わせてしまう。認証というのは何かの社会的必要を満たすためにあるのだが、広く社会一般にその必要が認識されているとは限らない。良くも悪くも日本人は現実主義的で原理主義的ではない。環境や生態系の保全の重要性は認めるが、環境原理主義者にはなりにくい。エコラベルのついていない水産物は絶対に購入しないという人は少ないだろう。高度な科学技術を誇る我が国では、科学者・技術者は一般に尊敬されていて、科学技術教育の質的保証の重要性は認識されている。しかし、その一方で、学位や技術士の資格に対して一定の報酬が支払われるべきだという発想はほとんどない。
MELにしてもJABEEにしても、社会的な必要を実現していくために一般の人が対価を払うという、経済的な動機付けによる社会の改善という発想が我が国ではもともと少ない。それはそれで良いところもたくさんあるのだが、経済的な動機を作りにくいので、なにごとも法的な規制に頼ってトップダウン的なコントロールに依存しがちだ。そのような社会で、MEL認証商品やJABEEプログラムが選択されるためには何か具体的な動機を作らなければならない。JABEEが認定を受けることのメリットとして用意したものは技術士第一次試験の免除である。JBEE認定プログラムを修了したものは、技術士第一次試験を受けることなく修習技術者となり、技術士補として登録して一定の実務経験を経て第二次試験を受けることが出来る。これが、JBEE認定プログラムの教育を受ける学生にとってのメリットであり、それを目的に優秀な学生が集まってくることが、大学(教育プログラム)側のメリットとなる。だが、このメリットは有効に機能しなかった。JABEE認定審査を受審するプログラムは立ち上がりから10年ぐらいは順調に増えていった。しかし、最近では新規に受審するプログラムは少ない。また、JABEEの認定を継続するには6年ごとに継続審査を受けるが、継続審査を受けない認定校も増えているのである。分野にもよるが、技術士の一次審査免除だけでは、優秀な学生をたくさん集めることは難しいというのが現実だ。こういう流れの中で、水産系の教育プログラムはよく健闘している。もともと、水産系の学部学科の数は限られているから、認定プログラムの絶対数は少ないのだが、順調に数が増えてきた。水産分野の技術士だけが特に享受できる特権のようなものはないし、実際、水産分野で技術士になる人は少ない。それにもかかわらず、多くの水産系プログラムは、JBEE認定の意義を見出しているらしい。水産系のJABEEプログラムは学部単位のような大きな教育プログラムが多い。大きなシステムほど管理が難しい。認証を受けることだけが目的ならば小さな教育単位にした方が簡単である。実際、工学系のJABEEプログラムの多くはせいぜい学科単位である。多くの水産系の教育プログラムが、JABEEを導入した目的は、一次試験免除という直接的なメリットではなくて、教育を中心とした大学の改革にあったのではないかと思う。JABEEを導入した水産系の大学で、受験生が増え、偏差値が上がり、有数の教員が集まりつつあるように感じる。もし大学改革が目的だったのならばその目的は達せられているように見える。
認証とは何かの対象物が定められた規格に合致していることを認めることだが、認証の対象は様々で、製品、プロセス、システムなどがある。製品認証の代表的な規格はJIS(日本産業規格)で、たとえば、JISではトイレットペーパーの長さは114m、直径は120mm以下と定められている。プロセス認証とは、製品が作られる工程が規格に合っていること認めることであり、システム認証とは、プロセスを常に監視し問題があれば直ちに改善する仕組みが機能していることを認めることであるが、プロセス認証とシステム認証を明確に区別することは実際には難しい。たとえば、国際的な食品安全管理規格であるHACCPとは、本来は、食品の安全を脅かす危害要因(Hazard)を分析(Analysis)した結果明らかになる、重要な(Critical)管理上(Control)の要点(Point)のことで、この要点で工程を管理・記録して問題があった場合に迅速に対応改善する上位のプロセスが機能していることを認証するのがHACCP認証だ。HACCP認証をプロセス認証と分類すべきなのか、システム認証と認識されているのか知らないのだが、プロセス認証でも、多くの場合、そのプロセスが規格を充たすようにPDCAサイクル(常に、計画を立てて(Plan)、実効し(Do)、結果を検証し(Check)、必要な修正を実行する(Action)こと)で工程を記録し管理する上位のプロセスを要求するので、プロセス認証でもシステム認証的な要素を含んでしまう。その違いを強調すれば、組織全体として情報を共有して管理プロセスが運営されていることを要求するのがシステム認証ということになるかもしれない。
水産系の教育プログラムの審査員をして、後日、何かの会合で受審側の先生方と顔をあわせてあの時は実はというような話を個人的にしたことがある。やや厳しめの判定をしたので気まずい思いがあったのだが、厳しめの判定をしてもらってありがたかったと言われた。筆者には、厳しめの判定の方がありがたいといと言った先生の言葉は実感としてよくわかる。若い新任の教員だった時に教務委員というのをやったことがある。大学の教育プログラムを管理する委員会で、授業の構成、授業の内容を管理する。若い時にこの委員会の委員になるととてもつらい。今はそうでもなくなったが、大学の教員というのは個性的な人が多く、自分の講義に誇りと自信を持っていて、自分の講義の内容について他人から干渉されたくないと思っている人が多かった。特にベテランの偉い先生には講義内容を変えてくれとは言いにくい。問題点を共有してくれないのだ。問題点を発見・組織全体でそれを共有し改善していくことは、何ごとによらず成功の秘訣だ。控えの選手、サポートスタッフを含めてゲームプランニングをチームとして全員が理解しているラグビーチームは強い。だが、実際にはこの問題点の共有が難しい。システム認証では組織全体として問題を認識し改善していくことが求められる。おそらくシステム認証にはシステム全体の改善という副次的な効果があるのだろう。水産系の大学があらかじめそのようなことを考えてJABEEを導入したのであれば、その慧眼は卓越している。
現在、MELはプロセス認証なのだが、やはりシステム認証的要素を持っている。本ニュースVol.25で松田裕之先生が、GSSIの関係者がエコラベルは常に改善されていくものだと発言したことを報告している。筆者はMELも次第にシステム認証的になっていくだろうと思っている。そもそも、加工流通を含めて水産業は、自然の生態系や環境を高度に持続的に利用することによって成り立つ産業だ。だとすれば、生態系・環境保全を目的としたMELの活動を軸にして組織を改善・強化していく戦略としてMEL認証を考えるというのもありそうに思う。

 

黒倉先生有難うございました。先週にMEL審査員研修を終えたばかりで、先生のお話がとても身近に感じられました。永年認証制度に関わってこられた黒倉先生ならではのお話しに深謝申し上げます。MELがより良いスキームとなれる様、今後ともご指導をよろしくお願い申し上げます。

 

欧米から始まりましたコロナの感染再拡大は日本にもおよび、連日各地で過去最高の感染者数が報告されています。ただでさえ不安が人々を覆うコロナ禍において、この感染再拡大が産業と医療崩壊につながらないことを願うばかりです。
いよいよ後数日で師走、水産関係者にとって最大の商機を迎えます。皆様の知恵と行動で何とかコロナに負けない年末商戦を実現していただきたいと願っています。

以上

 

※配信しましたメールマガジン上でで認証件数と理事会の開催日に誤記がありましたことをお詫び申し上げます。