MELニュース2023年9月 第66号

残暑がしぶとく頑張る中、秋の彼岸を迎えました。暑かっただけでなく、各地で発生した線状降水帯による豪雨と一方では降雨不足による干ばつの被害に遭われた皆様に心からのお見舞いを申上げます。
ご承知の通り猛暑は日本だけでなく世界の海に及んでおり、アメリカ海洋大気局(NOAA)は世界の海の48%が「海洋熱波」と呼ばれる異常高温状態にあると報告しています。この高水温が気象や生態系、漁業に深刻な影響をもたらしているのは言うまでもありません。特に日本では道東、三陸沖の水温の高さが突出しており、冷水を好む秋の魚の来遊に悪影響を及ぼすことが懸念されます。
折しも関東大震災発生から100年、防災だけでなく水産業の生き残りに様々な思いを致しております。

1.国際標準化関連

GSSI 事務局は、 9 月 21 日 現地時間 MEL が GSSI 新基準( Global Benchmark Tool Ver2.0 )に承認されたことを公表しました。 当初 MEL 事務局が期待して い た 8 月 中 承認から結局 1 ヶ月 遅れとなり 、 お待たせ し申し訳ありません 。
これを受けて、 MEL 協議会は 9 月 2 2 日に 記者発表を行いました ので 、専門紙の記事がお手許に届いているかと思います 。
MELは 7 月の CSC( アラスカ RFM) に続き、世界で2番目の GSSI 承認スキームと なりました。
持続可能な水産業を推進する世界のリーダーの一角になったこの機会に、「日本発、世界が認めるMEL」 として関係者の皆様と力を合わせ更なる 研鑽と 進化を続け、自ら事業の成長実現に邁進したいと願って います。

GSSIのリリース

2.認証発効関連

今月の認証発効は養殖1件、CoC2件でした。 特記事項として、養殖1件は理研食品様のスジアオノリの陸上養殖が発効しました。スジアオノリとして勿論初めてですが、陸上養殖の更なる広がりを強く予感させます。

3.MEL認証取得者からのご報告

昨年12月に発効しました北海道利礼漁業エコラベル推進協議会のホッケのその後の状況についてサプライチェーンの後半を担われる丸水札幌中央水産の竹田社長に取組みの状況をご報告いただきました。

「ホッケの付加価値を高めるために」

丸水札幌中央水産株式会社
代表取締役社長 竹田 剛

弊社は札幌市中央卸売市場の卸売業者として2021年1月にMELのCoC認証を取得いたしました。昨年12月に利礼漁業エコラベル推進協議会が「ホッケ刺網漁業」での認証を取得し、今期が認証魚種として初年度の取り扱いとなります。
弊社と利尻・礼文地区とは古くからホッケの取引を行なっており、昨年度の利礼地区の冷凍ホッケ取扱数量は約2千トンとなっております。また、弊社のグループ会社であるマルスイ冷蔵株式会社エース食品部は、以前から利礼産のホッケを原料として開きホッケやホッケスティックを製造・販売しておりましたが、今年4月にMELのCoC認証(一次・二次加工)を取得いたしました。
これによって生産者から卸売業者、加工業者までの繋がりが確立されたことになり、量販店を含む道内外のお取引先様に対しMEL認証商品としての販売を進めてまいります。

竹田社長有難うございました。漁業者だけでなく、加工事業者、さらには小売、外食とサプライチェーン全体が消費者に近づくことで、MEL認証による付加価値向上が実現出来ることを願っています。

4.関係者のコラム

先月開催されたジャパン・インターナショナル・シーフードショー及びMELワークショップ2023に合わせ来日されました、GSSI事務局長Lisa Goché様に日本のSustainableな水産物への取組みに関し印象をお話いただきました。

「水産物の持続可能性と日本の機会」

GSSI事務局長 Lisa Goché

 まず初めに、MEL NEWS への寄稿の機会を与えてくださり皆様に感謝いたします。 そして、私たちがより持続可能な水産物の必要性について一緒になってコミュニケーションすればするほど、世界の食糧供給を確保するための責任ある実践を推進できる可能性が高まると思っています。

私のこの寄稿文が掲載されるまでに、MELがグローバル・ベンチマークツール (GBT) バージョン2 への再承認が完了したことを、GSSIが既に発表している可能性が高いことにも言及しておきたいと思います。これはFAOの基準に基づく厳格かつ困難なプロセスです。世の中にはたくさんの認証制度がありますが、その多くはGBTの要件に準拠できません。それはある意味では大切なことで、簡単なことではありません。
消費者、水産物の供給者、購買者は、どのエコラベルを信頼できるのか知る必要があります。2019年に初めて承認されて以来、MELが示してきた取り組みや継続的な改善は、MELのように国際的に認められ信頼できるエコラベル認証の重要性を表しています。日本の水産業を活性化する鍵となるのは、日本のエコラベルによる持続可能性の第三者による検証の仕組みです。

ここで GSSI について少し説明します。GSSIは、増加する人口に食料を供給し、食料不安を軽減するために、水産物のバリューチェーン全体にわたる環境政策と社会的責任を推進しています。さまざまな GSSIのソリューションは、購買者と供給者がESGポリシーを策定および実行することを支援し、その取り組みを紹介するために世界的にコミュニケーションしています。そして、それは最終的には消費者にもベネフィットをもたらします。

8月23日に大日本水産会が主催する「MELワークショップ – 水産エコラベルの新時代」への登壇を依頼された時は、とても嬉しかったです。最初に、とても素晴らしいトピックだと思いました。次に、GSSIはアジアへの関与を強化するよう取り組んでおり、日本の重要性を考えれば、これはぴったりだと感じました。そして最後に、日本は私の一番好きな国なのです。随分前になりますが、留学生として日本に暮らしていました。その後、対米輸出要件に準拠する支援業務として何度も日本に来る機会がありました。日本とその人々そして魅力的で優雅な文化は私にとってとても大切なものです。数年後、また戻ってくる機会に巡り合えたことに本当に感謝しています。

私は何十年も水産業界に携わり、漁業、養殖、飼料の各分野でさまざまな役割を果たしてきました。さまざまな職務につきましたが、私は何よりもビジネス志向の人間です。成長、利益、雇用、生産を増やすことの必要性、そして企業や経済にとっては、水産物の取引額も重要です。また、事業計画が環境や社会の持続可能性としっかりと結びついていなければ、企業や経済は将来にわたってうまく繁栄することはできません。きっちりと計画された中長期の成功戦略は、必然的に持続可能性と繋がります。どちらかがなければ、もう一方も手に入れることができません。簡単に言うと、将来、漁業や養殖の資源がなくなってしまったら、私たちの事業や産業が成り立たなくなるのです。社会が求める栄養や食料安全保障のニーズに壊滅的な影響を与えることは言うまでもありません。私はワークショップや大日本水産会、水産庁や大手企業向けの説明資料を準備する際に、このメッセージを強調しました。 なぜ持続可能性が重要なのか、改善を求める世界的な圧力、どうすればそこに到達できるのか、そしてそのためにGSSIが何をお役立ちできるのかなどについて皆様と意見交換しました。

そして、日本の役割や機会についての私の意見も伝えたいと思いました。日本人は、何世紀にもわたって水産物が食生活の重要な部分であったことをよく認識しています。食生活に加えて、文化、コミュニティ、経済にも深く根ざしています。それにもかかわらず、持続可能な水産資源管理、ESGポリシーおよびエコラベルの必要性に対する認識は、あるべき姿になっていません。私が日本とビジネスを始めて以来、特に欧州や北米などの他の先進国と比べて、意識普及への支援が遅れているように思います。IMFは、日本の経済規模は2023年に第3位になると予測しています。そのことと日本と水産物の関係を考慮すると、日本はこの分野でリーダーとなるべきです。国内的にも、国際的にも。

訪日前資料作成のためのリサーチをしていた時、水産庁の英語のウェブサイトから、前述の多くの視点(あるいはそれ以上)が記載された2022年の計画を含む2021年の水産白書を見つけて大変嬉しく思いました。政府が人権、IUU漁業、健全な水産資源、その他の重要なテーマに取り組んでいることを知りました。2022年3月に策定された新水産基本計画では、漁業や養殖管理の改善の必要性について詳しく記述されていました。同庁はまた、日本の水産業界の生産量、消費、輸出額の減少に対して、それは何故なのか、そしてどのようにV字回復させるかを論証していました。私はそこから多くのことを学びました。水産庁の統計はインパクトがあり、そして少しショッキングでさえありました。

ワークショップは素晴らしい経験でした。他の登壇者のプレゼンテーションはどれも興味深いものでした。それぞれから多くのことを学びました。各組織の視点は、水産物の持続可能性の改善が何故重要なのかについての説得力のある主張を織り交ぜていました。また、事前にそれぞれ話す内容について協力していないにも関わらず、登壇者全員が同様なかつ補完的なメッセージを発信されたことにも驚きました。そして、会場からの質問もこのテーマに対する参加者の皆さんの真剣さが伝わってきました。

その後、幾つかの企業を訪問しましたが、これらのテーマに対する彼らの真摯な取り組みに対して大変感銘を受けました。彼らは時間をかけて現在の取り組みと将来の目標について説明してくれました。あらゆる規模のより多くの組織がこのようなビジョンを示せば、日本とその他の世界にとって真のベネフィットとなるでしょう。

日本政府と水産業界がESGへのコミットメントを拡大するにつれ、英語と日本語の両方で透明性とコミュニケーションが重要になります。もしあなたがやっていても人に言わないと伝わりません。国内でも海外でも一緒です。知らなければ、多くの政府、購買者、NGOはいろいろと憶測を立てたりするでしょう。残念ながら、その憶測は否定的なものになることがよくあります。それは日本の評判に関わることだと思います。日本がアジア全体、そしてそれを越えて先導する責任があることを認識することも重要だと思います。それは国内外の社会のためにという意味です。

最後に、日本でお会いした皆様に心より感謝申し上げます。皆様の優しさとご支援は、まるで私が家にいるように感じさせてくれました。そして、貴重な時間を割いてこれを読んでくださった皆様に感謝いたします。私たち全員が協力して、より持続可能な水産物のベネフィットについての意識を高めることができれば嬉しく思います。日本にはたくさんのチャンスがあります。今がまさに「その時」なのです。

Lisaさん有難うございました。私は数日間Lisaさんと時をともにしましたが、Lisaさんが極めて詳細に日本について勉強して訪日されたことに正直驚きました。今回Lisaさんからいただいた寄稿は、水産物の持続可能な利用について海外の親日派を如何に増やすか?へのヒントになりました。Lisaさんの最後の言葉「今がまさにその時なのです」をしっかり噛みしめて頑張ります。

今後とも日本の持続可能な水産業の世界での認知度向上にご指導を賜わります様お願い申上げます。

5.販促関連

MELアンバサダーの皆様が積極的に活動してくださっております。「さかひこ」さんのジャパン・インターナショナル・シーフードショーの動画がYou Tubeに投稿されました。MELホームページに掲載しておりますので、販促という視点からユーチューバーの発信力を活用する参考になればとお知らせします。

6.イベント関連

9月23-24日に丸の内仲通りを会場に開催されました農林水産省主催「食から日本を考える。NIPPON FOOD SHIFT FES. 」の水産庁「さかなの日」ブースに出展しました。夏の暑さが残る中ではありましたが、若いファミリー層を中心に食への関心が高い皆様で賑わいました。MELもGSSIの新基準に世界で2番目に承認されたスキームであることをお知らせし、「日本ではMEL、世界でもMEL」を大いにアピールしました。

100年前、関東大震災の後「天譴(てんけん)」という言葉が流行ったという。日清、日露戦争、更に第1次大戦を経て日本人に拡がった驕りに対する「天のとがめ」を受けたのだとされています。それから100年、年々激しくなる気候変動の影響を私たちはどう受け止めたら良いのでしょうか。IPCCは既に異常気象は人災と決めつけており、科学雑誌に発表される論文は、北大西洋から沈み込み数千年をかけて地球を巡る深層海流が弱まっていること指摘しています。この深層海流が気候の調整機能や漁場形成を担っているだけに、これからの人類に下される「天譴」にどう対応するか正に叡智と行動が求められています。
今年の「全国豊かな海づくり大会」は北海道厚岸町でした。豊かな海に囲まれる北海道も気候変動に苦しんで居られることが伝わって来ました。一昨年のまさかの赤潮被害からの回復に皆様が続けておられる様々な努力に敬意を表し、一層のご発展をお祈りします。

以上